第17章:運命の申し子 そして五月…新婚の眩しい季節…。 彼女のお腹は大きくなり、刻一刻と新しい生命の誕生の日が近付いていた。 そんなある日の夜…僕は御門さんの辛そうな声で目を覚ました。 すると隣りで御門さんがお腹を抱えて酷く苦しんでいた。 「だ、大丈夫?!御門さん…!」 「…陣痛が…始まったみたい…!もう…結構…辛い…。」 「僕…病院に電話するよ!」 僕は慌てて電話しようとした。が、そんな僕のパジャマの端を御門さんに摑まれて止められてしまった。 「もう…駄目…此処で…お願い…。」 「でも…。」 「此処で…産みたいの…お願い…。」 「分かった…。でも…どうすれば…?」 「お母さんを起こして、已綱さんを呼んできて…。お願い。」 何と已綱さんは、産婆さんの資格があるのだ。まるで役に立ちそうにない特技だが、こういう時役に立つ。 そして御門さんのお母さんも、予定日が近いので泊まりに来ていたのだ。 僕は慌てて二人を呼びに行きすぐ来て貰った。 それから彼女は痛みと安らぎの繰り返しを続けた。まるで打ち寄せては引いていく波の様に、陣痛というものはやって来るのだ。 僕は彼女の苦しみ方が段々酷くなってくるので、 「み、御門さん…死んだりしないよね?!」 と心配になった。然し、 「陣痛っていうのは、これが普通やねんで、辰美はん。」 「そうですわ。痛みが増すのは生まれる時が近付いてる証拠ですもの。大丈夫ですよ。」 と二人に言われてしまった。 苦しむ彼女を見ながらそれを替わってあげられない自分が歯痒くなった。 でも、彼女は僕の方を向いて僕の名を呼びながら苦しみに耐えた。 僕はそんな彼女の手を取って彼女を力付ける事しか出来なかった。 一つの命が生まれるのに、これ程まで苦しまないといけないなんて…。 人を殺すのは一瞬だけど、人が生まれるのはこんなに大きな代価を払わなくちゃいけないんだ…。 そう思うと、僕は生命の重みというものを嫌というほど実感せざるを得なかった。 「ああ!もうすぐやで!さっちゃん!力抜いて!」 彼女がふーっと力を抜いた。と同時に元気な産声が聞こえた。 「男の子やで!さっちゃん!辰美はん!」 男の子…じゃあ、一刀だ。 鏡家の子孫が敵方である捨陰党総帥の、その孫を取り上げた不思議な運命の瞬間だった…! 御門さんは疲れ切ってぐったりしていた。僕はそんな彼女の手を取り頬に当てながら、 「流石だよ。御門さん、貴女は凄いよ。流石…僕の奥さんだ…。」 と彼女を褒めた。 「ありがと…。貴方が居たから私頑張れた。貴方が私に力をくれたの。でもよかった。無事に生まれて…。」 僕達は二人で新しい生命が誕生した事を喜び合った。 その子はすぐ臍の緒を切って産湯に浸かって…そして又僕の所に帰ってきた。 「抱いてもいい…んですか?」 二人は頷いた。 「でも…やっぱり御門さんが先に抱くべきだよ。」 「いいのよ。辰美クン…抱いてあげて。私…もう少し横になってるから。」 彼女はそう言ってまるで聖母マリアの様に優しく微笑んだ。 僕は…恐る恐る…まるで硝子細工でも扱うかの様に、そっと赤ん坊を抱いた。 その子は…とても軽かった…。が、僕の心は途轍もなく重い生命の重みを感じていた。 手も足も顔もとても小さくて凄く不思議な感じがした。 まだ、どちらに似てるかなんて分からないけど、とても男らしい顔立ちをしていた。 「初めまして。一刀。よろしくな。」 僕は何気なくその子の手に人差し指を持っていった。するとその子はまるで握手をするかの様に僕の指をぎゅっと握り締めた。 そうして僕は自分の子供との最初の挨拶を交わした…。 こうして、代々鳴鏡を守り続けてきた巫女の子孫と、捨陰党総帥の息子の両方の血を引く、真の意味での抗争の終わりを告げる新しい時代の象徴、不思議な運命の申し子が僕と御門さんの長男として誕生した…。 僕は謀らずも自分の血縁の者達の生命の交代劇を自らの手で手掛ける事になった。 この手で斬った父さんと兄弟の為に、そして新しい鳴鏡館の為に、この子を立派に育てようと固く心に誓ったのだった…。 終 |
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