第拾弐章、露見~人の心の奥深く~ その夜、僕は夢を見た。 森…だろうか、嫌にリアルな風景だった。 少し歩いていくと、誰かがそこに立っているのが見えた。よく見てみると、何処かで見覚えのある少年だった。 僕は、思い当たってはっとした。 あの時、あの決戦の夜、僕が打ち負かしたあの少年剣士だった。 その子は僕の方をくるっと振り向いてこう言った。 「久し振りだね、兄さん。」 僕は金縛りに遭った様に動けなくなっていた。 「元気、してた?随分…幸せそうだね。…貴方達は本当に愛し合ってるんだね。」 …何を、唐突に、言い出すんだ? 「…でも、本当に、そうかな?」 …どういう、意味だ。 「本当に、兄さんは義姉さんの事…自分の命より愛してるのかな?…お腹の赤ちゃんの事も、本当に大事に思ってるのかな?」 彼は、小悪魔っぽくふふっと意味深に笑った。…嫌な笑い方だ。 「…僕は二人を愛してる。自分の命よりも…な。」 「本当に?…絶対だね。」 そこで不意に目が覚めた。…嫌な夢だ。額に汗が滲んでいる。魘されていたのかもしれない。 その日、僕は学校へ行き授業が終わってから飛ぶ様に鳴鏡館へと向かった。 そこに着くといつもとは違い何やら騒がしかった。 「どうしたんですか?」 「あ、辰美君!御門が…御門が倒れたの!一緒に救急車に乗ってあげて!」 蛍火さんが慌てて駆け寄ってきた。 御門さんは顔色も蒼くぐったりとして生気を失くしていた。 「御門さん!」 そして祈る様な気持ちで病院まで付き添った。 そこで僕はお医者さんに、全く原因不明で然もこのままこの状態が長く続けば二人の命は危ない、と言われた。 突然の事態に唯成す術もなくおろおろするしかない自分が腹立たしくさえ思われる。 僕に出来る事があれば、と思ったが完全看護だからと追い返されてしまった。 僕は一晩眠れない夜を過ごした。 …そうだ。もう僕は御門さんなしでは生きていけない。 …御門さんの命は僕の命だ…! 僕はもう彼女なしでは生きてはいけない男なのだ。 …僕ははっきり言ってこんな時に学校なんか行く気にはなれなかったが、あの例の全国道場破りの旅の所為で情けない事に出席日数はもうギリギリになってしまっていて行かざるを得なかったのだ。 学校に着くと僕はいつもの通りに、 「おはよう。」 と声を掛けたがいつもの返事はなかった。一体どうしたのか、僕が余りにも憂鬱そうな顔をしている所為かな、そう思った。 が、周りをよく見ると何だか皆こっちを向いてひそひそ話をしている。 …全くどうしたのか。皆目検討が付かない。 と、その時ポンと肩を叩く奴がいた。 振り向くと僕の悪友が立っていて、いつになく神妙な顔つきでこう言った。 「辰美、お前もっと自分を大切にした方がいいぞ。」 「一体、何の話?」 「お前、気が付かないのか?皆の様子が変だって。」 「…確かに変だ。一体どうしたの?」 「どうしたもこうしたもお前もうバレてんだよ。」 えっ? 「お前、女、孕ませたんだってな。」 「!!!」 驚きの余り言葉さえ失くした。 「な…何言ってんだよ。」 「学校中で噂になってるぜ、お前。これじゃ先生から…いや校長から直々に呼び出しが掛かるのも時間の問題だな。…辰美、お前もっと自分を大事にした方がいいぜ。…校長の前では知らないってシラを切って、女と別れた方がいい。ガキも…諦めさせろ。…お前は気にする事なんかないぜ。女が、バカだったんだよ。高校生のガキなんかに手なんか出すから。まあ、仕方ないんじゃねえか。こんな事、よくある話さ。産む産まないの争いなんて。…な、辰美、よく考えろ。たかが女とガキの為に自分の一生を棒に振る積りか?賢くなれよ。頭使え。な。まあお前は元々頭がいいから大丈夫だとは思うが…。俺はお前の親友だからな。お前が心配なんだよ。…分かったな、辰美。」 僕は、ショックで気が動転していて、普通だったらこいつを殴り飛ばしてやる所なのに、何も出来なかった。 それに…あろう事か、僕は…退学させられるのが恐い…と思ってしまった。 奴の言った通り、僕は校長室に呼び出され、噂の真相を聞かれた。 が、僕は答える事が出来なかった。 「竹科君…。噂は飽く迄噂だ。だからもし唯のデマなのならはっきりそう言ってくれ給え。そういって君が堂々とした態度を取っていれば噂なんてあっという間になくなるものだよ。然し…もし噂が事実だとしたら、これは…困った事になるねえ…。」 「困った事って…どういう意味ですか。」 「君が例え噂が事実だと認めなくても、実際にそういう事実のある生徒を此処に置いておく訳にはいかないんだよ。分かるだろう。我が校の名誉に傷が付くんだ。だがもし噂が真実だとしても、もし君がその女性と別れるというのなら、退学だけは免れるんだ。子供も…諦めた方が君の為になると思うんだがね。ま、君がそんなに気にする事はないと思うよ。相手の女性も、高校生と分かってて関係を持ったんだから、それなりの覚悟は出来てるだろうしね。どうなんだね?噂は真実なのかね、それとも出任せなのかね?」 僕は崖っぷちに立たされた。 どうしよう…。 でももうどうしようもなかった。 今は唯でさえ御門さんが心配でいてもたってもいられないのにこんな辛い選択まで迫られるとは。 額からは今朝の悪夢の時の様な冷や汗が出て、僕の心臓の音は最大ボリュームになった。 僕はふと思った。もし此処で噂はデマだと言い張ってそして彼女と別れてしまえば僕は助かる…。退学などという恐ろしい事態からは免れる…! だが、僕はそう考えて、ぞっとした。 …何という事を考えたんだ、僕は!僕は、御門さんを守ると、一生かけて守ると誓ったじゃないか。あの心は嘘だったのか? いや、違う。真実だ。僕の想いは嘘偽りのない真実だ。 だが…今退学という二文字を突きつけられる恐怖も事実だ。 僕はこの恐怖と彼女への想いの狭間で揺れていた。…僕は決心をしなければならない。 二つに一つ。どちらかだ。もう迷えない。 僕はその時、彼女の心を思い出した。その、言葉と涙を。 僕が例え御門さんを捨てても、僕の子だから大切に育てたいと言った。 僕の…僕の為に、僕の心の苦しみを思って僕より泣いてくれた御門さん…。 僕達の子を殺す事は、御門さんを殺す事。御門さんを殺す事は、僕を殺す事だ。 …御門さんは僕の命だ。僕はもう、御門さんなしでは生きてはいけない。僕にとってはもう御門さんが全てなのだ。御門さんのいない人生なんて、いらない。 そうだ、僕は御門さんを愛している。自分の命よりも。御門さんの為になら僕は死ねる。命など惜しくはない。 …僕はこんなにも彼女の事を愛しているのだ…。 …そう思うと、退学の二文字が僕の心の中でふと軽くなった。 未来永劫まで僕は御門さんを離さない。絶対に。何があっても。…僕は一生掛けて御門さんと赤ちゃんを守るんだ。 僕は男だから、僕が御門さんを守るんだ。 …それに、自分のこの手で斬った父さんの為にも、父さんの大事な孫を僕が大切に育てていく事が僕にとってせめてもの罪滅ぼしになるかもしれない。 父さんを亡くした代わりに、父さんの生まれ変わりの様なこの子を育てるんだ…。 もう、僕の心は揺るがないよ。 御門さん、父さん、赤ちゃんの為に、僕は決心をした。 もう迷わない。恐くない。僕はもう決めたんだ。 そう、決心が付いた途端、遅れ馳せながら今迄心の底に眠ってた感情が涌いてきた。 …それは、怒りの感情だ。 こいつは、たった今御門さんと赤ちゃんの二人の心と命を軽視した…! 僕のたった一人の愛する女性、僕が一生かけて愛したいと思っている、世界でたった一人の掛買のない愛しい女性を、事もあろうに、馬鹿にした…!許せない…! そればかりか、僕たちが授かったたった一つの尊い命を…諦めろだと? まだ、小さくても、生まれてなくても、今、確かに生きているんだ…! それも、その子は僕と僕の愛する女性との愛の結晶なんだ…! それを、諦めろだと…? 僕は…僕は…今迄こんなに激しい憎しみを抱いた事などなかった。多分それほどまでに僕は二人を愛してしまったんだと思う。 だからこそ、今目の前にいるこの男への怒りが一層深いものとなったんだと思う。 僕は、こいつを殴り飛ばしたい気持ちで一杯になった。 …が、然し… 僕は殺しのプロだ。人も殺めた事がある。今こいつを殴り飛ばせばきっと死んでしまうだろう…。 といっても一発や二発程度じゃ死ぬ訳ないのだが、一度殴り出したら僕はきっと怒りで我を忘れて抑えが利かなくなる。 今更、人殺しなんてしたくない、という訳ではないが此処は深夜の山の中とは違う、真昼の学校なのだ。 今僕がこの男を殺せば僕は殺人罪で娑婆には居られなくなる。 そんなのは嫌だ。僕は御門さんを守ると誓ったんだ。御門さんに迷惑を掛けたくない。何より御門さんの側に居たい。 その為には今此処でこの男を殴り飛ばす訳にはいかなかった。 …僕は、握り拳を作り、ぐっと堪えた…。我慢するのも男の強さの内だ。御門さんを守る為に、僕は頑張るのだ。 …だがその代わり僕は、今迄何度も込めた事のある殺気、真剣勝負をする時の、あの人を殺めた時の殺気を込めて、俯いていた顔をゆっくりと上げ、そいつを思い切り睨んでやった…! すると、そいつの顔が一瞬で蒼褪め、凍りつくのが分かった…。 奴の額には汗が滲み、恐怖で目は大きく見開いたままになった…。 まるで蛇に睨まれた蛙同然にそいつはふいに威厳を失くし、さっきまでの落ち着きなど何処へやら、恐怖の余りに失禁寸前という顔になった。 僕は、今迄この殺気を剣の心得のない者に向けた事などなかった。相手もプロだったのだ。 プロだったら、一方的じゃなく睨み合いになる。向こうも負けない殺気を込めてくるのだ。 だが、今素人相手に殺気を込めて、僕は知ってしまった。こういう反応を示すのだと。 …何だが、結構面白いものだ。大の大人の癖に十代そこそこのガキに睨まれてびびっている…。 いい気味だ。僕たち三人を侮辱した当然の報いだ。 …僕は込めていた殺気を緩め、そして鼻先でフッと笑った。するとそいつはホッとした様に肩の力を抜き額の汗を拭った。 が、その手はまだ震えていた。 「噂は、真実です。」 「で…では、その女性と…別れるんだね。」 校長は、当然そうするだろう、言いたげな風に言った。でも、僕は… 「いいえ。別れません。僕は、今日限りで此処の生徒をやめます。」 「…そ、そんな…。もう少し考え給え。君の将来が…。」 「僕の将来は彼女なしでは有り得ません。僕の未来は彼女のものです。僕は彼女の居ない将来などいりません。僕は彼女が居たからこそ今迄生きてこれたんです。彼女がいなくなるなら僕は、死んだ方がましです。僕は…自分の学歴や体裁なんかより、彼女の方が大事です。彼女を心から愛しています。僕は自分の命より彼女を愛しているんです。もしそれが分からないとしたら、貴方は可哀想な人ですね。本当に人を愛するという事がどういうことなのか…分からないなんて。…失礼します。」 「待ち給え!冷静になって考えて給え!」 「僕は冷静です。…それに、噂の元がいなくなれば学校の名誉とやらに傷が付かなくて済むじゃないですか。一石二鳥ですよ。」 僕は皮肉っぽくニコッと笑って校長室を後にした。 それから、つかつかと教室に入り、自分の荷物を持って教室をさっさと出て行った。 「辰美、お前…!」 驚いて追い掛けてきた悪友を尻目に… 「さようなら。もう僕は退学になったんだよ。」 と言い残しにっこり笑って、門を出た…。 僕は御門さんが気になるので早く病院に行きたい一心で急いで道を飛び出した。 すると横から急に車が飛び出してきて僕は撥ねられそうになったが誰かに突き飛ばされて助かり、そのまま意識を失った…。 ふと暗闇の中で目が覚めた。僕は死んでしまったのか…? よく見ると、前に見た事のある森の中だった。…矢張りあの少年剣士がいた。そして彼は僕にこう言った。 「負けたよ、兄さん。…いや、二人にね。」 …どういう意味だ? 「色々やったけど、どうやら二人の意志は固いみたいだね。」 「お前が全部仕組んだのか?!」 「仕組んだだなんて、人聞き悪いよ。僕は唯本当の心を知る機会を与えてあげただけ。唯、それだけだよ。そして、兄さんも義姉さんも自分の心に従って行動した。唯、それだけなんだよ。」 「お前…!」 僕は彼に摑みかかろうとした。が、身体が全く動かなかった。 「…僕の負け。だからこれ、返すよ。」 と、彼は何かを差し出した。…何だ? 「ほら、これだよ。さっき兄さんの代わりに車に轢かれたでしょ。」 見ると御門さんに貰ったあのマスコットだった。よく見るとそれには黒いタイヤの跡が付いていた。 「…おかしいな。ちゃんとポケットにいれておいた筈なのに…。」 ごそごそとポケットを弄ったがそこにはマスコットはなかった。…一体どういう事だ? 僕は、訳が分からなくなり次第に意識が失われていった… …気が付くと僕は病院の御門さんの側で寝ていた。疲れからか、知らない間にウトウトしていたらしい。 「辰美クン…。」 目を上げるとすっかり元気になった御門さんの綺麗な顔があった…! 「よかった…!御門さん、治ったんだ。元気になったんだ。よかった…!」 僕は彼女を目一杯抱き締めた。瞳には自然と涙が滲んだ。 「辰美クン…私、どうしてたの?何だか急に気が遠くなって…。此処は病院なの?赤ちゃんは?」 僕はすぐ医者を呼んだ。するともうすっかりよくなって赤ちゃんも無事だと言われた。 「御門さん、急に倒れて気を失っていたんだよ。僕…本当に恐かった…!御門さんも赤ちゃんももう居なくなっちゃうんじゃないかって、恐かったよ…。愛してる…。御門さん…。」 「辰美クン…、御免ね。心配掛けて。…でも辰美クンも大丈夫だったのね、よかった。」 「…え?僕が大丈夫…って?」 何の事だろう? 「…やっぱりさっき見たのは夢だったのね。」 「ど、どんな夢?」 「妙にリアリティーのある夢だったわ。森の中に子供がいて…それでその子に私“貴女は本当に彼の事好きなのか”って、“本当に愛してるのか”って何だか意地悪く笑いながら訊かれたわ。」 「そ、その子って、どんな姿してた?ちょっと描いてみて。」 御門さんは器用にその子の絵を描いた。それは紛れもなく僕の弟の姿だった…! 「それで、私“本当よ”って答えたら急に場面が変わって…貴方が慌てて飛び出してきて車に轢かれそうになったから私、貴方を突き飛ばして貴方の代わりに車に轢かれて…気が付いたら此処のベッドで横になってたの。」 僕は急いで胸ポケットを弄った。 するとそこには確かにマスコットはあったが何と黒いタイヤの跡が付いていた。 「あら?それ、どうしたの?まるで車に轢かれた様な跡が付いてるけど、道にでも落としたの?」 まさか、このマスコットが僕を守ってくれたのか? …いやこのマスコットというよりこれに込められた彼女の心が僕を守ってくれたのだ。 何だか狐につままれた様な話だが、結果的には僕は僕の気持ちと彼女の気持ちを再認識してしまった。 だが、僕は彼女に辛い事実…退学の事を話さなくてならなかった。 が、今は病み上がりでショックを与えると彼女の身体によくないので、日を改めて話そうと思い、その日は家に帰って寝床に付いた。 すると僕は又、夢を見た。そして又僕の弟が来て、こう言った。 「よかったね、兄さん。」 「何がよかっただ。人の心試す様な事しやがって。彼女も赤ちゃんも、危ない所だったんだぞ!」 「そう…本当に危ない所だったよ…。二人の気持ちがもし上っ面だけだったら僕は…義姉さんと赤ちゃんを、こっちの世界へ連れて行こうと思っていたんだ…。」 「な…何だと?!お前、何の権利があってそんな…!」 摑みかかろうとしたが僕は又金縛り状態で動けなかった。 そんな僕を見るとそいつはふふっと笑って、 「嘘だよ。冗談。義姉さんは唯ちょっと疲れてただけ。赤ちゃんも大人が思ってる程やわなものじゃないんだよ。二人は大丈夫だよ。唯ちょっと夢を見ただけ。…兄さんもちょっと夢を見ただけ。…でも、貴方達の心は本物だった。兄さん、これからも色々な事があると思うけど、今の気持ちを忘れないで。…そしたら、きっと幸せになれるから。…絶対だよ。」 そう言うと、そいつはすっと消えてしまった…。 「辰美ぃ、おい。起きろっ。授業始まっちまうぞ。」 授業?何言ってんだ。僕は退学になっちまったんだぞ。 「辰美、しっかりしろー!」 そう耳元で怒鳴られたんじゃ、起きるしかない。 「あれ…?何で…僕…こんな所に?僕…退学になったんじゃ…?」 「はあ?お前、何言ってんだよ。頭大丈夫か?寝惚けてんじゃねえぞ。」 「僕…あれ?何で普通に授業受けれんの?」 「何言ってんだよ。いつも普通に授業受けてんだろうが。それよりもう始まっちまうぞ。しっかりしろよ!」 本当に、不思議な事に、僕は普通に授業を受け極普通に友達と話す事が出来た。 …何だ、今迄の事は全部夢だったんだ。よかった。ホッと胸を撫で下ろした。 だが僕は御門さんが気になった。正夢だということもある。 僕はいつもの通り授業が終わるといつもの通り飛ぶ様に御門さんの家に行った。 「御門さん!御門さん!」 僕は合鍵で家に入り彼女を探した。 「どうしたの?そんな血相変えて…。」 台所の方からひょいといつも通りの綺麗な顔を見せた。 「御門さん!無事?赤ちゃんは?大丈夫?」 「…え?ええ…。別に…何も…。」 ああ、よかった…! やっぱり、皆僕一人で勝手に見た夢だったんだ…僕は思った。 が、 「ねえ、聞いて。昨日ね、凄くリアルな夢を見たの。」 え…?まさか…? 「ど…どんな夢…?」 御門さんはその夢の話を詳細に話してくれた。 そして何と驚いた事にその夢は僕が見た夢の世界そのものだった。 「…御免ね。」 「何が?」 「私がいる所為で貴方に…辛い思いさせて…。やっぱり、恐いわよね。退学は…。」 そう言って暗く俯いた。 「そんな!そんな…僕はそんなの恐くない!そんな事より本当に恐いのは貴女と赤ちゃんを失う事…。僕、本当に恐かった。僕はもう、貴女なしでは生きてはいけないんだ…。貴女は、僕の命なんだ…。」 僕は、彼女の手を強く握りしめた。そしてその手を自分の頬に持っていった。 …好きです、御門さん。…早く一緒に暮らしたい…! 「私も貴方なしでは生きていけない。貴方の側に居たい…。でも私がいる事で貴方に迷惑を掛けるのは嫌なの。私…本当に貴方と一緒にいていいの?貴方は本当に私なんかでいいの?私…貴方の側にいていいの?」 「そんな…。僕がお願いしたい位です。一緒に居させて下さい。お願いします。好きです。好きなんです。御門さん…!」 「本当に?私…貴方の足手纏いなんかに、なりたくない。」 「足手纏いだなんて…!貴女は僕を、車に轢かれそうになった僕を…助けてくれたじゃなですか。あの心は、本物なんでしょ。」 「ええ。本物よ。私…夢中で貴方を助けて…車に轢かれて死んでしまったって思ったけど、貴方が助かってよかったって思った。…愛してる。」 「…御門さん…。」 僕達はゆっくりとお互いの唇を近付け、溜息が出る様な長い長い口付けを交わした。 「…辰美クン、長い夢を見てたわね。」 「うん、本当に長い夢だった。」 変にリアル過ぎたけど、やっぱり夢に過ぎなかったんだ。僕はそう思った。然し… 「辰美クン、そういえばあのマスコットどうしてる?」 あっ。そういえば、制服の胸ポケットにこっそり入れてたっけ。 「此処だよ。ほら。」 僕はポケットからマスコットをゆっくり取り出した。 「!!!」 僕達は言葉を失くした。 何とそこには夢で見たのと全く同じ様に、黒いタイヤの跡がくっきり付いていたのだ…!
|
画像掲示板レンタル |アダルト無料ホームページ |