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第16章:貴女の心にいつも光が射すように

 

それは新婚旅行先のトレビの泉で二人で背を向けてコインを投げようとしていた時の事だった。

僕は、目を瞑ってコインを投げてからついいつもの癖で柏手を打って願を掛けようとしてしまった。

“こ、此処は神社じゃないんだった…”

僕は自分の失態が恥ずかしくなって目を開けた。

すると隣りには、目を見開いたまま凍りついた御門さんがいた。

“どうしたんだろ?”

僕がそう思ったその時、御門さんの手から握られていたコインが落ちた。

僕は反射的にそのコインを拾おうとしたが誰かに先を越されてしまった。

それは、白髪交じりのロマンスグレーの、まるでハリウッド俳優の様な端正な顔立ちをしたハンサムな東洋人だった。

そして、その人は、

「コインが落ちましたよ。お嬢さん。」

そう言って御門さんにコインを渡し、すれ違う様にして金髪美人と腕を組んで歩き去って行った…。

「日本人…か。」

僕は、その人の消えるのを見送った。

「…御免ね。辰美クン、コイン落としちゃって…。」

「う、ううん。それより、どうしたの?」

「え…?う、うん。その…あっちの方に有名人が居たから…。」

「ふうん。御門さんって意外とミーハーなんだね。」

「え…。う、うん…。そうなの…。御免ね。…あ、もうコイン投げた?」

「うん。…でも神社と間違えて柏手打っちゃった。」

「じゃ、私も投げるわね。」

「ちょっと待って。僕ももう一度貴女と一緒に投げるんだ。」

 

そうして僕達は観光を済ませ、ホテルでゆっくりと甘い時間を過ごしてから寄り添う様に眠りについた…。

 

その夜、僕はふと目覚めてしまった。

横を見ると隣で寝ている筈の御門さんが居なかった。でも、代わりにメモがあった。

そこには、

“外の空気を吸いにちょっと行ってきます。すぐ戻るので心配しないで待ってて下さい。貴方の妻より”

と書いてあった。

どうしたんだろう?こんな時間に。

僕は彼女が心配になった。

…でも、すぐ戻るって書いてあるし…。

 

散々迷った挙句結局彼女を探しに行く事にした。

そしてホテルのロビーまで行った所で柱の向こうから声が聞こえて、僕は条件反射的に隠れてしまった。

その声は…御門さんと…もう一人は中年男性の様だった。とても低く渋くていい声だ。

“この声…何処かで…”

思い出した。昼間コインを拾ってくれた男の人だ。

でもどうしてそんな人と御門さんがこんな時間にこんな所でこそこそする様に会ってるんだ?

まさか、新婚早々浮気?

いや、いや、僕は何を考えているんだ。御門さんを信じられないなんて…。

然し、この男性が一体誰なのか、全く僕には検討が付かなかった。

そしてその声の掛け辛い雰囲気に僕はその場に金縛りの術に掛かったかの様に動けなくなってしまっていた。

「会いたかった…!」

「私もだよ。早苗。」

よ、呼び捨て?

「いい女になったな。綺麗だよ。お前が生きていてよかった。まだあんな危ない事を続けているのか?もうやめて、女としての幸せを摑まないと駄目だよ。お前は美人で優しいんだから、幸せにならないと駄目だ。」

「大丈夫よ。抗争はもう終わったの。もう大丈夫なの。それに、私今新婚旅行で此処に来てるのよ。」

「え?新婚?じゃ、昼間一緒に居た男が、お前の…?」

「旦那様よ。」

「随分若そうだったけど、彼は幾つなんだい?」

「十八歳。まだ高校生なの。」

「高校生か!これは又随分大胆だねえ。でも、どうしてまだ高校生なのに結婚したんだい?…まさか、お前…!」

「うん。今五ヶ月目なの。」

「そうか…。コートを着ていたから分からなかったよ。それは…一度そいつをぶん殴らないとな」

え?!ええ?!

「又、そんな冗談言って。もし彼が聞いてたら、きっと目を白黒させるわ。」

御門さんはクスッと笑った様だった。じょ、冗談なのか…。

「分かったかい?お前はよっぽどその男が気に入ったんだな。」

「うん。彼以外の男は、私にとっては男の人じゃない。彼は、素敵な男性よ。」

「私よりもかい?」

「うん。」

「これは、参ったね。幸せにおなり。私は…側に居てあげられないけど…。」

「やっぱり…帰ってこれない…の?」

「ああ…。昼間見ただろう?あの女の人と…再婚するんだ…。」

「…そう…。」

「でも、私はいつもお前の事を想っているよ。お前は私の自慢の娘なんだから。」

え?!娘?!

「愛してる。父さん。」

「私もだよ。後でお祝いをフロントに預けておくよ。受け取っておくれ。じゃ、私はこれで失礼するよ。お前の旦那様も起きるかもしれない。」

「…うん、元気でね…。」

「そんな顔しないで。折角の美人が台無しだよ。さあ、愛しいダーリンの前では笑顔を見せるんだ。その方がお前は何倍も綺麗なんだから。」

「…うん。」

「そうだ。お前は世界一綺麗だよ。」

キスをしたらしい。

「…じゃあね…。父さん…。」

そう言うとその人はホテルのロビーからカツンカツンと足音を立てて消えていった…。

「…!辰美クン…!」

御門さんは僕を見付けると驚きと後ろめたさの混じった何とも言えない複雑な表情をした。

「すみません。立ち聞きする積りはなかったんですけど…。つい…出辛くって…。」

「私こそ御免なさい。驚いたでしょ?」

「う…うん。今の男の人って、もしかして…。」

「部屋…帰ろう。全部…話すわ。」

そして僕達は部屋に帰った。

 

「御門さん…どうして最初から僕に話してくれなかったの?」

「御免なさい。でも、父さんの事話すと貴方に気を使わせてしまうと思って…。」

「日本から会う約束してたの?」

「ううん。会えるなんて思ってなかった。行方不明だったから。イタリアに行ったらしいって小耳に挟んだ事があっただけで確信はなかった…。私の父さんと母さんは私が小さい時は仲がよかったの。でも母さんが私に剣術を教え始めた時から毎日喧嘩ばかりするようになって、ある日突然居なくなってしまったの。私の父さんはイタリア料理のシェフなの。小さい時はよく私に美味しいトマト料理を作ってくれて…それで私トマトが好きになったの。本当はずっと捜しに来たかったんだけど、私には鳴鏡を守る義務があって、ずっと来れなかった。私本当に父さんに会えるなんて思ってなかったから、昼間父さんを見た時は自分の目を疑ったわ。父さん、すれ違い様に私のコートのポケットに名詞を入れてくれて…それで連絡が付いたの。」

そうだったのか…。御門さんのトマト好きにはそんな悲しい理由があったんだ…。

「御門さん、よかったら明日一日お父さんと会ってきてもいいよ。久し振りの再会なんでしょ。」

「…そんな、辰美クン…。」

「ね、僕なら気にする事ないから。」

「優しいのね。でも…いい。」

「どうして?」

「だって…私…父さんの幸せの邪魔したくないもの。」

「御門さん…。」

「そうよ…。私…父さんが幸せでいてくれるなら…それでいい。もう一度会えただけでも…私…。」

そう呟いて御門さんは唇を噛み締めた。僕には彼女の気持ちが痛い程分かってとても辛くなった。

御門さんは、又僕に心配掛けまいと僕の前で涙を我慢していた。

だから僕は彼女をそっと抱き締めながら、言った。

「…いいんだよ、早苗。泣きたいだけ泣いていいよ。誰にだって泣きたい時くらいあるよ。僕に…もっと甘えてよ。それで貴女の心が晴れるなら…。僕は貴女の苦しみを取り除きたいんだ。貴女の心にいつも光が射すように…僕はいつもそう願っているんだから。」

そう言うと御門さんは今迄押し殺していた心を一気に流し出す様に声を上げて激しく慟哭した。

僕にはそんな彼女が幼い少女の様に見えた。

父を失い、淋しさに独り泣き悲しんでいる少女。

僕は御門さんの幼少時代にタイムスリップしてきたかの様な錯覚を覚えた。

「辰美クン…御免ね…。貴方の方がずっと辛い別れを経験したのに…私ばっかり貴方に甘えて…。」

「そんな事ないです。貴女は僕を支えてくれたじゃないですか。僕は本当に貴女に感謝してるんです。貴女が居てこその僕なんです。貴女は僕の命なんです。」

「辰美クン…辰美クンが居てよかった。貴方が居なかったら私…こんな淋しさ耐え切れなかった。淋しかったの…辛かったの…父さんが再婚するって聞いた時も、父さんが居なくなった日も…。」

そして彼女は激しく慟哭した。

僕はそんな彼女の髪を優しく撫でた。

彼女は、泣いて…泣いて…慟哭の果てに疲れて深い眠りについた…。

 

僕はそんな彼女の寝顔にキスしながらどうしたら彼女の心が癒されるかという事ばかり考えていた…。

 

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