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執愛の果てに

第一話:計画

 

結局あれから空蝉様はワタクシを朝まで眠らせては下さらなかった。

一度果てては、又抱かれ…、そして又…

その繰り返しだった。

幸せな夜。そして、幸せな朝を愛する殿方と迎えた。

けれど一つ、解決していない問題が残っていた事を、ワタクシは思い出してしまった。

そう、それは…

“彼”の事。

ワタクシに求婚してくれた、あの子の事だ。

“告げなければ、ならないのですね…”

ワタクシは少し憂鬱だった。

自分の事で大事な後輩を傷付けなければならないからだ。

ふうと思わずため息も漏れる。

“でも、このまま黙ってる訳にはいかないわ…”

男らしく寝息を立てている空蝉様の腕枕の中で、ワタクシは憂鬱な決心を固めた。

 

翌日。

空蝉様に許可を頂いたワタクシは、いち早く彼に連絡を取り付けた。

憂鬱で面倒な事は早く済ませたい。

彼は、いつもの口調で、こう言った。

「こちらに、直接来てくれませんか…。」

直に、返事が聞きたいらしい。

彼の傷付く顔を直接見なければならないのか、

ワタクシは更に憂鬱になった。

“御免なさい、ナイトストーカー…”

心の中で、唯謝るしかなかった。

人の幸せの陰で、誰かが不幸になる。

それは仕方のない事なのかもしれないけれど…。

 

「すみません…。わざわざ来て頂いて…。」

甲斐甲斐しくお茶を出してくれた彼が礼儀正しく正座をしながらそう言った。

「いいえ。ワタクシこそ、返事が遅くなって、御免なさい。」

申し訳なさに視線を合わせるのが辛くて思わず目を伏せた。

「蛍火さん…。」

視線の端に映る彼がそんなワタクシに視線を真っ直ぐに向けたまま、呟いた。

「そ、それで…あの…。」

“御免なさい。”

一言こう言えば彼を傷付ける、余計な事など言わず済む、これだけで、きっと分かってくれる、簡単な筈…。

そう、散々自分に言い聞かせ此処へ来た筈だったのに、その一言の重みを改めて実感して言いかねた。

あまりの緊張の為か、喉が貼り付く様に乾いてくる。

「よかったら、どうぞ…。」

そんな様子を見ての事か、上品に手を差し出し、彼が一言そう言ってくれた。

「ありがとう…。」

喉を潤す程度に、ほんの少し頂く積りで手を掛ける。

そんなワタクシを瞬き一つせず見詰める彼が瞳の端に映る。

思わず一息に飲み干し、ふ…っと小さな溜息。

「そ、それで…あの…。」

湯呑みの少しざらざらとした感触に手持ち無沙汰気に手を滑らせながら、何とか口を開く。

「蛍火さん…。薄々分かっていました…。言いかねてるんですよね…。」

「…ナイトストーカー…。」

俯き加減になって今にも泣きそうな彼の様子に胸がずきずきと疼く。

「一つ答えて下さいませんか…。もしかして、誰か好きな方がいらっしゃるのではないのですか…?」

「え…ええ…。」

風の音にも掻き消されそうな位、小さな声でしか答えられない。

「…そう、ですか…。」

サー…っと、障子の向こうから、葉を擦り合わせる様な風の音が聞こえた。

余りの気まずさに、此処を早く立ち去りたい気持ちで一杯になる。

「…御免なさい…。」

一言、そう言い残して、この場を早く去りたかった。

「…蛍火さん…本当に謝らなくてはならないのは、私の方なんです…。」

「どういう、意味…?」

意味不明な彼の科白の意味は、直後に意識を失う事によって知ることになった。

「…蛍火さん…こんな事したくなかった…。」

段々と薄れていく意識の中で彼の、懺悔にも似た言葉が、聞こえた様な気がした…。

 

「お茶に混ぜて分からないなんて、凄い薬でしょ…?」

暗闇の中で男の声がする。夢か現実か判別つかない。

“お茶…?薬…?”

「愛してます…蛍火さん…。大体分かっていました、貴女の返事は…だから…。」

“だから…何なの…?これは…悪夢…?”

真っ暗闇から、ダークグレーに、そして、それが段々と、ぼやけながらでも科白の主の輪郭と意識が少しずつはっきりしてきた。

そしてその後、自分の置かれている状況を把握した。

両腕が、上で一つに縛られて、固定されている…!

身を捩って何とか逃れようとするが、ロープか何かでしっかり縛られていて全く逃げられない状況だ。

「ナイトストーカー…まさか、貴方が…?!」

信じがたいが、今までの記憶を遡ると、そう判断するしかなかった。

信じられなかったし、信じたくもなかった。今まで信用してきた後輩に、こんな仕打ちを受けるなんて。

「…なんで…こんな事…?一体…どうしようっていうの…?」

「分かってる癖に…私は、貴女を、好きなんですよ…?やる事は、決まってるじゃないですか…。」

す…っと手のひらでワタクシの頬を撫でる、その顔には顔色がなく、酷く不気味にも見える。

明らかにいつもの親しげで優しい彼とは違っていた。

瞳には暗い影。悲しげな色が浮かんで…。

「まさか、ワタクシを…?」

「蛍火さん…。私を憎んでもいい。…その代わり…一度だけ…一度だけ…私のものに…なって下さい…。」

「…やめて!ワタクシは…ワタクシは…好きな人が…!」

精一杯の力で頭を振る。

けれど、彼は、

「ああ、そうでしたね…。」

と、遠い物語を聞くかのようにさらっと言ってのける。

冷たい言い方。冷たい態度。

振られた男というのは、こうなれるものなの…?

「蛍火さん…私を殺して下さい…そうすれば…逃れられますよ…。いずれ誰かが、見つけてもくれますし、ね…。」

そう言いつつ、彼が顔を、ゆっくりと近付けてきた。

上から吊るされている状態で、逃れる術もないワタクシは、顔を背ける、という方法でしか、抵抗する術がなかった。

だけど、それも、薬の作用がまだ残っているのか、身体に満足に力が入らず、彼の片手によって、単なる無駄な抵抗に終わってしまった。

好きな人…愛する旦那様、空蝉様以外の男性の唇が、ワタクシの唇と折り重なった。

“い…いや!”

情けない事に、涙が出てきそうになる。

大好きな人と、やっと結ばれた、その絶頂の最中に、こんな悲劇が待っていようとは。

「さあ…今から入れますから…私の舌を噛んで下さい…そうすれば、免れますよ…。」

そんな事など出来る筈もない、その事を見越してわざと言っているのか、それとも本当に死を覚悟しての強姦なのか…ショックで判断しかねる。

ぬる…っと、力のまともに入らない唇を簡単に割って彼の舌が予告通り侵入してきた。

「ん…!んん…!」

ぬるぬると、ワタクシの唇を割って、口腔内のありとあらゆる場所を弄る。

歯、舌、そして、頬の内側までも、じっくりと、いやらしく…。

“今、彼の舌を噛んで、殺せば、助かる…!”

そう分かっていても、出来ない。

以前のワタクシならば、何の同情も抱かず、例え後輩であろうとも、迷う事なくそう出来たかもしれない。

でも…

いつの間にかワタクシは、甘くなってしまったのかもしれない。

“駄目…出来ない…!”

大事な後輩を殺せるだけの非情さは、今のワタクシには持てなかった。

かと言って、自分の舌を噛んで死ぬ、という選択さえも、選べなかった。

まだ、生きていて、空蝉様と一緒にいたい、例え死ぬしかなくても、せめてもう一度だけでも会いたい…!

そういう思いが、ワタクシの自殺を辛うじて止めていた。

そんな感じだから、ワタクシの抵抗する術は、最早なくなってしまったのだった。

唇を思い切り貪りながら、彼の両手が、ワタクシの胸と足を、着物越しに撫で始めた。

その手は、力強く、そしてねとつくようないやらしさ。

「は…あ…。」

唇が離れ、やっとのことで一息つく。

「もう…やめて…。お願い…そんな貴方なんか…見たくない…!」

心の中に、同情の感さえ沸いてくる。

「蛍火さん…私が、ずっと、貴女をお慕いしていた事、知っていました?私が、どれ程貴女を愛しているかを、伝えるまで、やめません…。例え、貴女に憎まれ、命を奪われても…。愛してます…蛍火さん…。」

ゆっくりと、ワタクシの着物の帯を解き始める、その手は、僅かに震えている。

「…やめて…やめて…。」

最早呟きにしかならないワタクシの哀願は、空しく部屋に響き渡り、衣擦れの音にも掻き消されていく。

「蛍火さん…蛍火さん…!」

泣いているかのようにも聞こえるその、彼の呟きの方が寧ろ大きく聞こえる。

帯は、薄い着物を辛うじて繋ぎとめていたものだったのに…

それは今、易々と解かれ、ワタクシの丁度腰の辺りに残酷に散った。

「蛍火さん…私は、貴女のその美しい肌を、どれ程見たいと思っていた事か…。」

もう夏はすぐそこ。

肌襦袢さえ着ていなかったワタクシの着物の中は、空蝉様に見せたかった、お気に入りのブラとパンティー。

「綺麗だ…!」

彼の口から感嘆が漏れた。だけどそんなほめ言葉も、今のワタクシの耳には心地よくは響かなかった。

「綺麗だなんて、思わないで…。」

正直な思い。ワタクシは空蝉様にだけ、そう思われたい。

普通なら、人に想われるのは喜ぶべき事かもしれない。

けれど、今のワタクシにとっては、彼の想いというものは、ありがた迷惑以外の何ものでもなかった。

「それは、無理ですよ…貴女を見て、綺麗だと思わない男は男ではありませんよ…ふふふ…。」

 “空蝉様…助けて…!”

その可能性は薄かった。

彼を信用しきっていて、こんな事になるとは、想像も付かないだろうからだ。

「誰ですか?貴女のこの美しい身体に、こんな醜い跡を付けたのは。」

ワタクシの着物の襟元を捲って首筋を眺めながらの、呟き。

そう言われて、はっとした。

身体中、空蝉様に十二分に愛されたからだ。

「誰でも、いいでしょ…。」

空蝉様の名前は出したくなかった。もし知られてしまえば空蝉様の身も危なくなるかもしれないからだ。

「それにしても莫迦な男ですね。貴女の大事な人は。貴女を想っている男の元へたった一人で送り出すのですから。…ふふふ。」

そんな不気味な笑みと共に彼がワタクシの首筋に舌を這わせた。

ぞく…っと背中に寒気が走る。

ここ…空蝉様にされた時は、感じすぎて自分でも恥ずかしい位だったのに…。

す…っと、彼も着物を自分で剥いで、肌を晒す。

意外と逞しい身体に、少なからずの驚きを隠せなかった。

「もう、この位の陵辱で、いいでしょ…?もう、やめて…!」

情けない涙をうるうると目に溜めているのが自分でも分かって、とても悔しくなった。

“空蝉様…空蝉様…!”

彼への愛しさと、何の抵抗も出来ない悔しさに、涙がはらはらと哀しく散る。

“空蝉様…空蝉様…!!”

声にならないように、呪文の様に唇で何度も何度も繰り返す。

“空蝉様…逢いたい…!”

彼恋しさに熱いものが瞳に浮かんでは頬を流れる。

夕べ、ワタクシのこの身体は彼の身体に抱かれていたのに、

彼に抱かれて口付けを受けていたのに、

彼に愛撫されていたのに、

彼と一つになって揺れていたのに…!

それなのに…今は…

好きでもない男に身を自由にされ、

口付けを無理矢理に受け、

いつの間にか下着までも剥ぎ取られ、

見られたくないのに抵抗する術もなく丸裸。

イヤ…

イヤ…!

イヤ…!!

助けて…!

空蝉様…!

「ひく…ひく…!」

とうとう声を上げ、しゃくる様な泣き方に変わる。

「やっぱり綺麗です。蛍火、さん…。」

目を細め、いとおしそうにワタクシを見る。

「そんな目で見ないで…。そんな目で見なくていいから、此処から出して…。」

涙混じりの哀願。情けない程、力ないワタクシ。力ない言葉。

だけどそんな言い方は、彼の残虐心を煽るだけだった。

「そんな言葉…あの甘さの欠片すらなかった厳しい蛍火さんらしくありませんね…可愛らしくて、弱々しくて…。ふふふ…素敵ですよ…。ずっと色っぽく、女っぽく、セクシーです…。余程その男が恋しいようですね…。益々貴女を傷付けたくなってきましたよ…。ふふふ…。」

最早逃れる術はないのか、

最早我が身は我が身ではなくなるのか…。

レイプや強姦の被害に遭うなんて、“女”を捨てた筈の我が身には関係のないことと思っていたのに…。

まさか自分がこんな危険に晒されるとは、

然も人の妻となってから貞操の危機に晒されるとは、

少し前では考えも付かない事だった。

こんな目に遭いたくなかった。

こんな事されたくなかった。

自分の身が自分の思い通り動かせず、意思と恋心を無視され、恥ずかしい姿を無理矢理曝け出され、辱めを受けるなんて…。

もしかして、ワタクシは、矢張り幸せにはなれない人間なのかも。

もしかしたら、幸せにはなってはいけない人間なのかも。

もし、空蝉様が今助けに来て下さったとしても、こんなワタクシの姿を見て、

彼に汚されたワタクシを見て…

それでもワタクシを愛してくれるだろうか…?

嫌いになるのではないのだろうか…?

もしかしたら、彼との幸せは、例え此処から逃げ延びても、

例え空蝉様に知られなくても、

もう、永遠に失われてしまったものなのかもしれない…

だって、もう…

彼の右手は、ワタクシの片方の胸に、

彼の左手は、ワタクシの、大事な所に伸び…

陵辱は、もう始まってしまった、のだから…

背筋が、ぞっとする。

気持ち悪くて、仕方がない。

余りの心地悪さに、思わず逃げようと、腰を捻る。

けれど、力が入らないし、何より上で一つに縛られていて、思う様に身動きが取れない。

「…や、やめて…!」

兎に角気持ち悪い。

敏感で、感じやすい所ばかり弄られているから、余計だ。

夕べ、彼に目茶苦茶にされた時は、兎に角布団がぐっしょりになる位濡れて濡れて仕方なかった。

もしかして、自分はとんでもない淫乱女なのかも…

そうまで考えてしまってちょっと落ち込む程だった。

だけど、

今無理矢理されて、そうじゃないと初めて分かった。

早く、終わって欲しかった。

そう願う位、気色悪くて鳥肌が立った。

ああ、もう…

早く、果てて欲しかった。

早く、さっさと犯して、

出してしまえば…

そうしたら、終わるかもしれないのに…

なのに…

彼は、焦らす様にワタクシの身体の隅々まで楽しもうとしている。

ワタクシが嫌がるのが楽しいのか、金色の産毛の一本一本まで嘗め尽くしていく。

そして…

見られたくない所を、今度はじっくりと眺めている。

足を閉じたくて仕方ないのに、それさえもまともに出来ない。

両足は、彼の両手でぎゅっときつく開かれているからだ。

「は…ああ…。」

もう、言葉も出なかった。

絶望と、悲しみ。ワタクシの心は、もう、疲れきって涙すらも涸れそうな程だ。

ぐちゅ…ぐちゅ…

彼にしか愛されたくない、秘密の場所で、卑猥な音がする。

とっても敏感で、デリケートな、その場所。

凄く感じやすい。いい意味でも、悪い意味でも。

今は、その悪い感じ方しかできない…。

身体を捩る代わりに、ぐっと唇を噛み締めた。

全身から冷や汗が出て、もう我慢も限界に近かった。

つー…

噛み締めた唇から、こそばい感じがする。

痛みさえも、感じられない。

彼は、こんな死人みたいなワタクシを抱いて楽しいのだろうか、

それとも、そうでないと、いじめ甲斐がないのだろうか…。

ああ、もう…頭も混乱してきた…。

ぐちゅ…ぐちゅ…

まるで潤いの一滴も流れない涸れた泉に、せめてもの水分を補給するかのように彼の舌が入り込む。

「蛍火さん、貴女のココ、は…男の匂いがします、よ。余程、愛されたようですね…。全く、腹立たしい限りです…。」

そう、ワタクシは、彼の精液、彼の、次の世代を残す為の、大事な遺伝子を、この、子宮に、貰った…。ワタクシの、たった一人の、愛する夫、に…。

とっても、幸せ、だった…。

そう、ぼんやりと、遠い昔の出来事のようにも思える幸せを思い出した。

今は、唯、悲しい。

もう一度、戻りたい、けど、もう、戻れない…

そう、はっきり…分かってしまった…

ワタクシに残されたのは、絶望、のみ。

もう、逃げる事は出来ない。

彼の陵辱からも、空蝉様との失恋も。

そう、はっきり、分かってしまった。

さようなら、空蝉、さま…。

彼に完全に身を奪われる前に、

もう一度、

遠くから、

心を、

送りたいから…

だから、

唇だけで、

想いを、呟いた…

“空蝉様、愛してます、ずっと…。例え…死んでも…”

そう、言い終え、

そして、

渾身の力を込め、舌を…

 

「蛍火!!!」

夢か、幻か。

ワタクシは一生、この時の瞬間を忘れないだろう。

奇跡、としか言いようのない、この瞬間を。

来てくれた…

来てくれた…!

来てくれた…!!

空蝉様、ワタクシの、愛する男性が…!

「空蝉様…!」

「余りに遅いから、心配になったのじゃが…!」

ワタクシはもしかしたら、長いこと眠らされていたのかも…。

でも、それがかえって幸いしたようだった。

「我が妻にこの様な振る舞い…覚悟は出来ておろうな…!」

きっと睨み付け、抜き身の刀をぎらぎらさせながら、空蝉様は彼に言い放った。

彼と一緒に仕事をした事もあり、彼と出会ってもう何年も経つけれど、こんなに怒りと殺気を顕にした空蝉様は初めてだった。

後ろにオーラでも見えそうな位、今の空蝉様は恐い形相をしていた。

「矢張り貴方でしたか…蛍火さんを汚したのは…!」

じりじりと、後ろに下がりながら、彼が空蝉様に睨み返した。

少しずつ、二人は間合いを計りながら動く。少し、少しずつだけれど、相手の出方を見ながら自分の間合いで斬り出そうとする。

こんな修羅場、いくつも潜ってきた空蝉様だから、彼の勝利は目に見えていた。

だけど、

心配なことには、変わりない。

何も出来ないワタクシだけれど、ひたすら空蝉様の無事を願う。

と、ナイトストーカーが後ろ手に何かを掴んだ。

あれは…きっと…

「空蝉様!危ない!!」

ワタクシが叫ぶのが早いか、彼が手裏剣を投げた。

幸いにも、空蝉様の頬を少し掠めた程度で、大事には至らなかった。

「はっ!」

空蝉様が、かわしながら彼に斬りかかった。

けれど、短剣でその刃を受け、鍔迫り合いになった。

二人とも、睨み合って、微動だにしない。

けれど、ぴりぴりとした、気のぶつかり合う空気は、凄まじいものがあった。

“空蝉様…!死なないで…!”

凄い掛け声と共に、二人は又間を離した。

そして、彼は、素早くワタクシの元に来、後ろから刃先を喉にあてがった。

「…刀を捨てろ。」

暗い呟き。

「お前は、愛する女を殺すのか…。」

「どうせ私のものにならないのなら、そうした方がましだ。」

薄気味悪い笑みさえ浮かんでいるような口調だ。

「お前には蛍火は殺せまい。」

「…殺せなくても、こういう事は出来る。」

「…ひっ!」

手を縛っている所為で完全に剥げなかった着物の、後ろの裾をたくし上げ、彼が、己の男根の先を、ワタクシの女陰の入り口にあてがった。

「や、やめて…!空蝉様の前で、犯さないで…!イヤ…!こんな事する位なら…早く殺して…!」

嗚呼、もう、これまで…

愛する男の目の前で、別の男に犯される。

そんな悲劇など、本当に御免。

こんな目に遭う位なら、死んだ方がまし。

でも、もう一度、

彼の顔を最後に見ておこう、

そう思って、

顔を彼に向けた。

“さようなら、空蝉様…”

だけど、彼は、

「蛍火、わしを、信用しろ。」

いつもの優しい目でワタクシを、一瞬見たかと思うと、

「うわあぁぁぁ!」

という凄い声と共に、彼が突然転げだし、ワタクシは間一髪助かったのだった。

一瞬、何が起こったか分からなかったけれど、転げまわっている彼の右手には、空蝉様が使っている合口が刺さっていた。

ほんの、一瞬の出来事過ぎて、ワタクシにはまるで見えなかった。

「蛍火!」

「空蝉様!」

手を縛っているロープを素早く切って下さり、ようやっとワタクシは愛する男性の腕に再び抱かれる事になった。

「う…うう…うう…。」

安心で、思わず彼の胸に顔を埋めて嗚咽してしまう。

彼は、そんなワタクシを力一杯抱き締めてくれ、左手で右手を押さえている男に向き直った。

「覚悟は、出来ておろうな…。」

最早、勝負は決まった男二人。

空蝉様は、殺気を込め刀を上に振り上げる。

彼は瞳を瞑って覚悟の表情。

でも…

やっぱり、駄目!

「やめて!やめて下さい!空蝉様!」

「蛍火…!」

「お願い、します…。やめて下さい…!矢張り、彼は、ワタクシの大事な後輩なんです!だから…!」

「蛍火、こんな男を庇うのか?」

「ワタクシには、彼の気持ちが分かるのです!ワタクシも、空蝉様にもし相手がいらっしゃったら…同じ事をしてしまっていたかもしれない!人を好きになる気持ちは、同じ筈…!それに、“仕事”でもないのに、貴方に…殺生など、して欲しくない…!お願い…!空蝉様!」

「蛍火…。分かった…。」

「空蝉様…!」

「だが、このままではわしの気がすまん。己の所業の報いは、受けてもらう。」

「空蝉様、何を…?」

 

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