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「明晩、俺に付いて、義嗣さまの寝所番をせよ」
そう言われて、馬士太郎の心臓がどくん、と跳ねた。

伊藤芳丸に直接声をかけられるのは、1ヶ月ぶりである。
母が義嗣に抱かれたと聞かされ、怒りに任せた掴み合いを演じたあの日以来、芳丸は馬士太郎に接近して来なかった。
別に馬士太郎の腕っぷしを恐れたわけではない。自重しているのだった。
君主である義嗣の寝所での様子を他人に漏れ聞かすなど、ひとつ間違えば斬首されても文句の言えぬ越権行為である。
馬士太郎の動揺する顔見たさについ口に出したものの、それ以上は芳丸も危ない橋を渡るつもりはなかった。
だが、芳丸は、自分が寝所番を勤めた翌朝に限って、馬士太郎に向かい、何か言いたげなにやにやとした笑みを見せるのだった。
その芳丸が、明日の晩、寝所番として自分に付き従え、と命じてきたのである。
(…何の意図か)
馬士太郎は思わずにいられない。
芳丸のあの言葉を反芻せずにはいられなかった。

――そちの母は明け方まで義嗣さまに御されて女の声を出し続けておったゆえ…

(…嘘じゃ。真っ赤な嘘に決まっている)
思い煩っても詮無いことだった。
今、自分は義嗣の小姓であり、その上下の組織の中で動くほかないのだ。
まだ十三歳の馬士太郎に、それ以外の生きる術を思いつけるはずもなかった
「…承りました」
そう返答すると、芳丸はにやりと笑い、そのまま背を向けて歩み去った。
(…明日の晩か)
この城に入って以来、初めて、間近に義嗣の姿を見ることになるのか。
義嗣、と思うだけで、馬士太郎の心の内にめらめらと復讐の二文字が燃え盛る。
まだまだその時期ではない。
だが、この恨みを決して忘れまい、と思う。
今は、義嗣という仇の一挙一動を見てやろう。
そして、目に焼き付けて覚えておくのだ。
いつか義嗣を討つ時に、そうした観察が、自分の役に立つであろう。

(…それまで、羊の仮面を被って、生きてみせる)
馬士太郎は、改めて胸のうちで誓うのだった。





嫉妬。
これがそういう感情なのだ、と気付いて、ここ数日の鈴貴は戸惑っている。

もう七日の間、義嗣から音沙汰がない。
亡き夫は、側室を持たなかった。だから、他の女の存在に心を悩ませた経験が、鈴貴にはない。
だが、義嗣は複数の側室を抱えている。
おそらくこの五日の間、寝所に自分ではない女を呼び、抱いている。
そう思うと、かあっ…と身内の血が燃えた。
(…どうしてだろうか)
これまで知らなかった自分の姿を見せ付けられるような気がする。
こんな淫蕩な女ではなかったはずだ。

昔から鈴貴に仕えてきた侍女の桔梗は、最近、鈴貴に対して取る態度を決めかねているように見える。
無理もない。尊敬して仕えてきた鈴貴が、今では夜な夜な憎き仇の寝所へ、襦袢ひとつの姿で通うようになっているのだ。
鈴貴より十五歳も若い桔梗には、最近の鈴貴が別の生き物のように見えているのだろう。

鈴貴も言い訳がましいことを口にすることが出来ない性分だ。
確かに、自分はいま、夫を殺めた憎むべき男に抱かれるようになっている。
夜な夜な義嗣の閨房で女の歓びを極めさせられ、何度も何度も果てる身体にされた。
だが、そんなことは自分に仕える立場の桔梗に説明すべきことでは、ない。

鈴貴とて、ただ大人しく抱かれているばかりではない。
「側室になれ」という義嗣の誘いを、実は、鈴貴はずっと拒んでいる。

都から招かれた義嗣の正室はお飾りのようなもので、西の丸で隠居のような生活を送っていると聞く。
義嗣との間に、子は生まれていない。
義嗣がもうけた子はすべて側室との間のもので、男が一人、女が四人だと、以前、義嗣に寝物語に聞かされていた。

「儂の子を、元気な男子を産め」
義嗣は鈴貴にそう言う。
「儂は天下を取りつつある。儂の子を産むということは、天下人となりうる子を産むということよ」

そうだった。側室になるということは、義嗣の子を孕まされても文句は言えぬ。
というより、孕まなくてはならぬ。自分が義嗣の子を産む女である認めることであった。
それは恐ろしかった。愛する馬士太郎の顔が、心に浮かんだ。

ただ、そんな鈴貴に、義嗣は強引に己の精を射込もうとはしないのだった。
すでに身体は義嗣の手管に負け、何度も何度も堕ちている。
孕ませようと思えば義嗣は出来たはずだが、鈴貴が承諾するまでは、それをしようとしない。
そんな義嗣の意外な一面にも、鈴貴の心は揺れていたのである。

最後に抱かれたのは、七日前。
「…身体が馴れれば、心も馴らされていくものよ」
鈴貴に添い寝し、鈴貴の髪を優しく梳かすように撫でながら義嗣は言った。
たった今絶頂を極めさせられ、息絶え絶えに夜具に仰向けに横たわる鈴貴。
その波打つ腹から下腹部にかけて、大量の義嗣の精液が飛び散っていた。
義嗣はそれを指ですくうと、喘ぐ鈴貴の口の中に、ねじ込んだ。
「…む、んぐっ」
か細く抵抗した。だが、義嗣の鋭い眼光が真上にあった。
舐めよ、と命じている。
鈴貴は、やがて、弱く舌を使いはじめた。
それを思い出す。桔梗があの自分を見たら何と思うのだろう。
鈴貴の身体が、熱くなる。


廊下を渡る音がした。
この昼の時刻、鈴貴の居室に渡ってくる者といえば、義嗣の小姓くらいしか思いつくことが出来ない。
鈴貴の胸が、不意に、とくん…と鳴った。

足音は、予想通り鈴貴の居室の前で止まった。障子の向こうに気配がする。
「鈴貴様」
声がした。鈴貴は、ゆっくりとした挙措で上座に姿勢を整え、それから桔梗に障子を開けるように命じる。
開いた障子の向こうには、何度か顔を見たことのある小姓が平伏していた。

「ご機嫌麗しゅう存じます」
まだ幼い小姓である。義嗣の情婦になってしまったとは言え、鈴貴の備えている気品の前で緊張しているのが分かる。
(…馬士太郎と同じ歳の頃だろうか。)
鈴貴は内心でそんな小姓の緊張を微笑ましく思いながら、答える。
「…はい。何用でございましょう」
「殿からのお言葉です。…今宵は、殿の寝所へお渡りになられますよう」

鈴貴は、身体が震えるのを感じた。
そして、鈴貴は、ついに認めざるを得なかった。
七日ぶりに義嗣の「夜の相手」を命じられた。そして、自分に芽生えた感情。
それは、歓びだった。しかも何と深く鋭い歓びだったことか。まるで雷に打たれたような。

(…私は、あの逞しく不遜な男に)
虜にされた。
はっとして鈴貴は桔梗を見た。自分は今、微笑んでいなかっただろうか。
そんなことはない。桔梗の視線がどこか責めるようだと感じるのは、気のせいだ。
「…承りました」
やや間を置いて、鈴貴は答えた。
だが、落ち着いて答えたつもりの声が震えていた。
動揺を見抜かれたような気がして、鈴貴は居たたまれない羞ずかしさに襲われる。



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