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       八   目次





全裸で立ち尽くす鈴貴に、義嗣は、やがてゆっくり歩み寄る。
そして、手のひらを鈴貴の下腹に、押し当てた。
「…ここに」
「…」
「たっぷりと、昨夜の、儂の子種が、入っておるか。ふふ」
かあっ、と鈴貴の顔が朱に染まった。
息子の前で、こうもあからさまに、精を射込まれた自分を曝されるとは。
「…早よう、孕め」
「…」
「儂が天下を取るのは、じきぞ。早ようせねば、間に合わぬわ」
鈴貴は、少し唇を噛む。そして、義嗣を上目遣いで見上げた。
(…馬士太郎の居る前で…)
その表情は、義嗣を責めながら、しかしどこか拗ねているようでもあった。
義嗣は、楽しんでいる。相変わらず、自信に溢れた目で、鈴貴を見下ろしてくる。
その大きな手のひらで下腹部をゆっくりと撫ぜられ、鈴貴の息が、わずかに弾む。
「…湯殿に」
身をよじり、かろうじて、鈴貴はそう言う。
「…健康な、男児じゃ」
なおも鈴貴の下腹部を、執拗に、妖しく撫で回しながら、義嗣は言った。
「よいな。鈴貴」
鈴貴の頭がわずかに、頷いた。
それから、背後の愛する我が子を、振り返りたそうな仕草を見せた。
許しを求めたのか。それとも息子に見られることを、恥じたのか。
馬士太郎は、反射的に下を向いた。母の目をまっすぐに見る勇気は、なかった。
やがて目を上げた時、母はもう、こちらを見てはいなかった。
義嗣と母が、全裸で、並び立っている。
義嗣はこちらを向き、母を狂わせた股間に生える男根を隠そうともせずに。
母は、豊かな白い尻を、無防備に馬士太郎に向けて剥き出しにして。
浅黒く引き締まった、筋骨逞しい義嗣の肉体。
そこに肉づき柔らかく、透き通るように白い母の裸身が、寄り添っている。
愛する母は、完膚なきまでに、奪われていた。


義嗣と鈴貴が、脱衣所の扉を開け、並んで湯殿に消えていった後も。
しばらく馬士太郎は黙したまま、その場に座っている。
たった今しがたの母と義嗣の会話。
身も心も奪われたような母の媚態。
どうしようもなく漂っていた「牡」と「牝」の馴れ合った空気。
それらが、どうしようもなく馬士太郎の心を苛んでいた。
確かに、今朝の寝所で、母は自分を守ろうとした。
だが、それとて、義嗣にすべてを懸けて立ち向かったのではない。
母は、自分が義嗣の女であることを認めるところから、物事を始めるようになっている。
(…おかしいではないか)
例え斬り捨てられようとも、義嗣の不義や傲慢に対し、正義を貫き続ける。
それが母と子の、誓いではなかったか。
鈴貴にとっては夫への、馬士太郎にとっては父への、約束ではなかったのか。
 -義嗣さまのお手つきになるのは女の名誉じゃ。
 -案ずるな。そちの母は、確かに気丈だが、床の中ではすっかり義嗣さまに蕩かされておるゆえ…
不意に、芳丸に放たれた言葉が、脳裏に甦ってきた。

やがて、ゆらり、と馬士太郎は立ち上がった。
そしてのろのろと脱衣所の中へ歩を進める。
命じられた作業を、無意識に馬士太郎は進めようとしていた。
脱衣所の床に、母の白い襦袢が脱ぎ捨てられている。それを、拾い上げた。
途端、母の肌の匂いが、馬士太郎の鼻腔を満たした。
(…母上)
思わず、白い襦袢を見つめる。両手で、すくいあげるように持つ。
この襦袢の裡に、母の真っ白な裸身が、今しがたまで包み込まれていた。
馬士太郎は、不意に強い激情に駆られ、その襦袢を胸のうちに抱きしめていた。
その時。
「…んふ…っ…」
閉じられた湯殿の、扉の向こう。
格子窓の部分から、声を洩れ聞いたように、馬士太郎は思った。


ぎょっとした馬士太郎は湯殿の扉の方を振り仰ぐ。
母か義嗣に、今の姿を見られたのかと思ったが、そうではなかったようだ。
安堵すると同時に、暗い疑問が胸にきざしてきた。今の声。義嗣のものではない。そう、吐息のような。
(…母上)
ふらり、と馬士太郎は立ち上がった。
扉の上部にある小さな格子窓。
そこから内の様子を覗き見ることは、たやすいことである。だが、もし、その姿を義嗣に見られたら。
主が側室を伴っている湯殿の光景を覗き見るなど、許されることではない。
今度こそは、母がとりなしてくれたところで通用するまい。
(…なら、それでも良い)
馬士太郎は、やや自暴自棄になっている。
自分が斬り捨てられたところで、誰が悲しむというのか。
母は「義嗣の女になる」とあれほど明確に馬士太郎に告げたではないか。
(なら、私は、父上のところへ行けば良いのだ)
馬士太郎は、ゆっくりと湯殿の扉に近づく。
扉に身を隠すように立つと、顔を寄せ、格子窓の端から、ついに内の様子を窺った。
朝の眩しい光と、湧き上がっている湯煙で、中は見えにくい。馬士太郎は目を細め、凝らす。
湯に濡れる檜床の匂いが立ち昇っている。清潔さを保った広い湯殿である。
(…いた)
湯煙の中に、義嗣の姿が見えた。
湯舟は、床と同じ高さから、床下へくり抜かれる形になっている。
床と同じ高さの湯舟の縁に、義嗣は腰掛けていた。だが母の姿が、どこにも見えない。
「…ん、ふ」
そう思った途端、母のものらしい、くぐもった声が、した。
ちゃぷり…と湯の揺れる音。檜の床に湯が溢れて、さあっと流れた。
(…どこに)
馬士太郎は、視線をやや下へ向け…そして、息を呑んだ。
母は、いた。湯舟の中に。溢れる湯の中に、その身を沈ませて。
義嗣が大きく開いた両足の間へ、白い裸身をもぐりこませて。
そして。
義嗣の股間に、母は深く顔を埋めていた。


(…っ?)
馬士太郎には、まだすべてが理解できていない。母が義嗣の股間に顔を埋めているのは分かる。
だが、湯煙が邪魔をして、母の行為のすべてを確かめることが出来ずにいる。
(…母上…なにを…)
また、ちゃぷ、ちゃぷっ…と湯が揺れた。
「…ふ…っ…ん…」
母の声。その時、湯殿のどこかに、窓があったのだろう。すうっと風が湯煙を掃っていく。
そして、馬士太郎は、見た。
そういう行為が男と女の間で為されることを、これまで知らなかった。
母の唇が、義嗣の浅黒く屹立した男根を、深々と呑み込んでいた。
「…んふっ…ふっ…」
母は目を閉じ、ゆるゆると、顔を上下させている。母の艶やかな唇を割って、義嗣の男根が、何度も何度も出入りする。
(…男根を、口で…)
馬士太郎は、ただ呆然とする。これも、男と女の、性の営みのひとつなのか。
義嗣の手が、母の頭を撫でた。犬を撫でるように。
母は、うっすらと目を開け、義嗣の男根を咥えたまま、義嗣を見上げた。その目は、熱にうかされたように潤んでいる。
「…続けい」
義嗣がそう言った。母はそれを聞くと、安心したようにまた目を閉じ、顔を動かし始めた。
「…ん…ふぅん…んふっ…」
母の鼻から洩れる吐息。顔の動きはじょじょに、激しさを増していく。
(…いつも、母は義嗣に、このような…)
母は妖しかった。馬士太郎の見知らぬ母だった。やがて、その口を、一旦離し、義嗣を見上げる。媚びるような目。
義嗣の無言に許しを得たと判断したのか、母の手が義嗣の男根に伸びていった。
馬士太郎が愛した白く細い指。何度も、馬士太郎を優しく撫でてくれた指。
その指で、母は、義嗣の男根の根元を、握った。あやすように、指を上下させ始める。
母の口からは、赤い舌が伸びた。義嗣の男根の先端を躊躇うことなく舐めた。
そして、ちろちろと、蛇の舌のように、何度も這わせる。ねっとりと舌の表裏を使って、先端全体を舐めあげ、唾液にまみれさせる。
指の動きは速さを増し、義嗣の男根の根元をきゅ、きゅ、と扱き立てる。
義嗣がふふ、と笑った。
「…あ、あぁ、ん…」
母はたまらず、恨めしげに、知性のかけらも感じられぬ嬌声をあげてみせる。


義嗣に植え付けられた被虐。
そのどす黒い悦びの炎の渦に、鈴貴は全身を焼かれて、法悦の極みにいる。
扉の向こうには、馬士太郎がいる。
だが、その事実すら、いまや、鈴貴の官能を刺激する材料でしかなかった。
女が男に狂う。そこまで深い性の悦楽など、ありえないと思っていた。
生まれてから、30年の間だ。そう思っていた。
処女は、亡夫・泰邦に捧げた。
それから、女の歓びは、それなりに夫に教わり知ったつもりだ。
だが、性の営みがなくては生きていけないと思ったことはなかった。
性の悦びは、人生の裏側にそっと存在するものだと思っていた。
理性や、教養や、女としての誇り。そして、例えば、息子への深い慈愛。
人の心の表側で強く輝き、力を保ち続けるのはそういうものだと思っていた。
その人生観は、すべて義嗣に、破壊された。
義嗣の前で自ら股を限界まで大きく開き、性器を剥き出しにして誘ってみせる。
義嗣の逞しい男根に膣を割り裂かれ、子宮まで、激しく何度も何度も穿たれる。
その時間こそが、今の鈴貴の至福だった。
(…教えて。鈴貴にもっと、もっと。教えてくださいませ)
義嗣の性器を、口いっぱいに頬張り、鈴貴は主を見上げ、柳眉を寄せて訴える。
(…私が、鈴貴が間違っていたと、教えて)
男根から指を離し、喉の奥まで再び呑み込む。吐き出す。それを繰り返す。
(正しいのは、義嗣様。あなただけと…愚かな鈴貴を詰ってくださいませ…)
頬をすぼめて男根を圧迫する。
舌を走らせては刺激を与え、真っ赤な顔を懸命に上下に振りたくる。
馬士太郎が見ているとも知らず。
義嗣に喜んで欲しい。鈴貴は口の周りを唾液でべとべとにしながら必死に奉仕する。
(義嗣様…義嗣様…)
息子の面前で。
母は一匹の浅ましい性奴となり果てる。


馬士太郎は母の屈服を見つめている。
義嗣の股間で、激しく母の頭が上下に動く。
口いっぱいに義嗣の男根を頬張って、うっとりと目を閉じる母。
時折媚びるような薄目で義嗣を見上げる。
義嗣が何も言わず見下ろすと、嬉しくてたまらないように、また顔を埋めていく。
(これが…本当に、母上か…)
馬士太郎は、血の色の心を抱えたまま、しかし、その光景から目が離せない。
義嗣が、母に何かを言ったようだった。
母が、義嗣の男根から口を離し、そして、ざぁっ…と湯から立ち上がった。
母の一糸まとわぬ裸身。今は、前から見る。
母は、若々しかった。ぴん、と湯を弾くような肌が、朝の光と湯気の中で、輝いて美しかった。
型崩れの全くない双つの乳房が、張りのある隆起を見せている。
そして、その先端に、薄茶色の乳首がふたつ、ぴん、と尖っているのが見えた。
馬士太郎に何度も乳を含ませた乳首は、いま、義嗣のために硬く尖っている。
男なら誰もが見とれてしまうであろう、腰の見事なくびれ。
その下腹を、慎ましやかにうっすらと覆う陰毛。
そのすべてを、母は、義嗣の為にだけ、晒していた。
やがて、後ろを向いた。命じられていたのだろう、そのまま義嗣に、豊かな形の良い尻を突き出していく。
母の、真っ白な尻。そして、その割れ目がはっきりと見えた。
義嗣がゆっくり足を開いて、再び、何かを言った。
それに従い、母が、おずおずと、突き出した尻を、義嗣の股間に落とし始める。
すぐに、剛直が尻のあわいに触れたのだろう。びくん、と母の腰が跳ねた。
もう、馬士太郎にも、母が何をしようとしているかは分かる。
母は、義嗣を受け入れようとしているのだ。それも、自ら、腰を落として。
恥じらうように母は義嗣を振り返った。かすかに、いやいや、と頭を振った。
その腰に、義嗣がそっと手を添える。添えただけだ。動くのは、母だ。
なじるような視線を送った母が、諦めたように、また前を向く。
義嗣の両膝に、母の手が置かれた。腰が沈む。ゆっくりと。義嗣の股間に母は背中から、尻を落としていく。
ぐちゅぅ…という浅ましい音を聞いたように馬士太郎は思った。
「…! あぁ…っ、あーー…っ…」
母は、朝の光の中で背を美しく反らし、喜悦の牝声を迸らせた。


母が剛直を呑みこんだのを見計らい、義嗣が母の両手をぐい、と後ろから掴んで牽いた。
「あっ…! あ、ひぃ…っ…義嗣さま…っ…いやっ…」
母が、哀れな悲鳴を迸らせる。
まるで、馬の手綱のように両手を義嗣に牽かれ、母はなおも、背を反り返らせる。
美しい裸身が、ぴん、と彫像のように突っ張った。
「や…っ、いやぁ…、…おゆるし、くださいまし…」
自由を奪われ、哀願すれば、義嗣がまた、ぐい、と腕を強く牽く。
「ふふっ…ほうれっ…!」
牽くと同時に腰をぐん、と下から強く突き上げる。
女の芯を、捉えられている。
身動きできぬ母は、ただ浅ましいよがり泣きを噴きこぼすばかりだ。
「い…っ、ひいっ…ひーーーっ…」
「はははっ…はしたないぞ、鈴貴…馬士太郎に聞かれておるのだぞ」
「やっ…いやぁーーーっ!…」
母が悲痛な叫びをあげると同時に、義嗣が腰の動きを激しくした。
最愛の母を、下からずんずんと容赦なく犯し抜く。
「…っ、ひいっ!…ひいっ!…ひいいっ!…ひいっ!…ひいいっ!」
一定の間隔で突き上げられ、母ははしたない叫びを上げ続ける。
息子が、すぐそばにいる。
自分を一途に愛している血を分けた息子に…性の悦びに狂わされる声を聞かれている。
だが、もはやその事実すら、鈴貴の矜持を保たせることは出来なくなっていた。
「ふふっ…どうじゃ?たまらぬであろうが?…鈴貴っ」
母は隷従した。叫んだ。
「ああっ…た、たまらないっ…義嗣さまっ…鈴貴は、気持ちようございますうっ…」
髪を振り乱した。狂ったように顔を左右に打ち振った。
自らの豊かな尻を、義嗣の腰にぶつけはじめる。
母の腰がうねる。獣のように。
「あああっ…ああーーーっ…義嗣さまっ…もっと、もっと…!…」
義嗣の強靭な肉体は、母のそんな激しさを、いともたやすく飲み込んだ。
「ふふ…そらっ!…らっ!…そらぁっ!」
母の激情を呑みこむ逞しさ、さらに母を突き上げ、身体の奥深く貫く。
母が、泣いた。涙をぼろぼろとこぼしながら、真っ白な尻を必死で振った。
「ひ…っ、ひっ…ひい…ひいいっ…ひいっ…くうっ…ひいーーっ」
気高かった母。
優しかった母。
厳しかった母。
その母は、いま、義嗣に犯され、腰を振って泣いていた。 まるで赤子のように。


馬士太郎は、ふらり…と浴場の扉の前を離れた。
これ以上、母の狂態を見続けても、どうなるものでもない。
もう、母が自分の元へ戻ってくることはない。
すべてを終わらせたかった。そうでなくば、あの日に戻りたかった。
父を殺され、母とふたりで、義嗣と対峙したあの日。
あの時、母と二人で、最後まで義嗣に立ち向かい、斬られていれば良かった。
母の、悲壮な決意が滲んだ眦を、馬士太郎は思い出した。
だが、あの時、母を、綺麗だと思った。
息子の命と、夫の誇りを掛けて、母は凛として立っていた。
居並ぶ敵将たちの前で、魔王のごとき義嗣にも、怯むことなく。
その気迫が、まだ幼い馬士太郎をして、母を、美しい、と思わしめた。
斬られることなど、怖くはなかった。
母とふたりで敵と戦っている。それが、馬士太郎の喜びですらあったのだ。

「いひぃっ…いぃーっ…いいーーーーっ…」
いま、その母のよがり声が、馬士太郎を幸福な回想から引きずり戻す。
あれほど強かった母の、恥知らずな盛り声が、否応なしに耳に届いている。
無言のまま、夢遊病者のごとく、馬士太郎は小姓が座すべき位置に戻りはじめた。
最愛の母を奪われたその目は焦点を失い、何も映してはいない。
(…強うなれ。馬士太郎。まっすぐに力強く正しい道を駆ける馬のように)
亡き父に掛けられた言葉が、不意に脳裏に甦ってきた。
立派な父だった。強い父であった。尊敬すべき父だった。
なのに、なぜ、母は。
その時、
「あ…あーーーーーーーーーっ!!」
明らかにひときわ高い叫び声が、扉の向こうから響き、そして、ぱたりと止んだ。
義嗣の性技に敗れ、絶頂に追いやられた母の、いまわの叫びであった。




続く

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