しばしの静寂が、戻っていた。 馬士太郎は俯き、黙して座している。 母の声が途絶えて、どのくらい経ったろうか。がらり、と浴室の扉が開く音がした。 馬士太郎は、ようやく、我に返り、顔を上げる。 義嗣が濡れた肉体を堂々と晒し、浴場から出てきたところであった。 その股間に、どうしても目がいった。 黒々とした密生する剛毛の間から、赤黒く太い男根が、垂れている。 つい今まで、これが母の胎内に深々ともぐりこみ、泣き叫ばせていた。 母が、義嗣に付き従うように現われた。 消え入りたいような風情で、義嗣の陰に隠れるように。 (…母上) どれほど、この母の態度が、馬士太郎を傷つけただろう。 なぜ、義嗣の陰に、隠れているのだ。 (母上を守るのは…私でなく、その男なのでございますか…母上…) 声には出せない。 だが、目で訴えたくとも、母は、視線を合わせてくれようとはしなかった。 やがて、義嗣に命じられた母は、木綿の布を手にして義嗣の身体を拭いはじめた。 馬士太郎に尻を向け、母は主の身体を甲斐甲斐しく拭いてゆく。 逞しい上半身を拭い終えた後、義嗣の前に両膝を折って座る。 太腿、そして両足。 母の横顔は、羞恥に染まっていたが、どこか満足そうに見える。 やがて、白く細い指が義嗣の性器に触れた。 息子の前で、ためらいなく、父以外の男の性器をじっと見つめた。 そして、優しい指で持ち上げる。 木綿で包み、母は丁寧に、それを拭っていった。 身体を拭かせたあと、母に、義嗣は立つように命じる。 従順にそれに従う母。 その肩を掴むと、義嗣はくるりと母の身体を回転させ、馬士太郎の方へと向けた。 「…あ、っ…」 突然の義嗣の行為に、母は狼狽し、声をあげる。 馬士太郎は、この光景を前に、身体を硬直させた。 そのまま、義嗣は鈴貴を、馬士太郎の間近まで引き立ててくる。 「…義嗣さま…っ、おゆるし…」 母が、哀れな声を上げた。必死で身体をねじり、この状況から逃れようとする。 だが、敵うはずもなく、今まで抱かれていた身体を、息子の前に晒される。 「馬士太郎」 義嗣は、馬士太郎に声を掛けた。 「…見よ。これが、そちの母よ」 「…っ…」 馬士太郎は、目を見開き、見上げる。 「だが今は、そちの母である前に…わしの女。雑賀家の子を産む女じゃ」 「義嗣さま…、どうか……」 母の頬をまた涙がつたった。涙の雫が、光って、床へ落ちる。 ここで母のために戦っても良い。馬士太郎は思った。 だが、それをして、どうなるというのか。 母は、それでも、最後は義嗣のもとへ戻ろうとするだろう。 一切の抵抗をせず、息子に裸身を曝す母の態度が、それを証明していた。 義嗣が、左手で母の上半身を抱きかかえたまま、右手で、その右足の膝の裏を掴んだ。 「…ひっ…いやっ!…いやぁあ!」 さすがに鈴貴が、叫んだ。義嗣の意図を察して、抗おうとする。 だが、義嗣はたやすく、ぐい、と母の片脚を持ち上げた。大きく、その股間を開かせる。 座している馬士太郎の目の前に。 母の性器が、隠すところなく、剥かれた。 (…いけない) そう思いつつ、馬士太郎は目を離せない。 母の、その場所。 母の膣口は、ざくろのように割れていた。 左右の花びらのような形状の陰唇が、充血して外へめくれあがっていた。 入り口はぱっくりと口を開き、中の、桃色や赤を散らしたような肉が、覗いて見える。 「…あぁ…」 母が、うめいた。か弱い声であった。だが、とうにその抵抗は止んでいる。 「…見よ」 義嗣は、馬士太郎を見下ろした。 「そちが生まれた、女の場所よ」 また、ここでぐいっ、と大きく開かせた。母が「ひっ」と哭く。 「…」 「じき、この腹が、儂の子を孕む」 母が、いやいや、と首を左右に振った。 そして、まさにその時。 母の割れ目から、どろりっ…と、大量の白濁の粘液が、垂れて落ちた。 義嗣の、精液。母のふとももをゆっくりと、伝っていく。 「…ひぃ…」 その感触が、分かったのだろう。母が哀れに哭いた。 父以外の男の精を、射込まれた母。 義嗣は馬士太郎をじいと見おろしていた。 母を守るために、何をすればよいのか。馬士太郎は考えている。 やがて、馬士太郎は、ゆっくりと平伏した。義嗣に頭を深く下げていく。 「…殿」 しばしの沈黙。 「…母を、なにとぞ、よしなに…。無礼ながら、なにとぞ、お願い申し上げまする」 母が、驚きで息を飲む音が聞こえた。 その馬士太郎の頭に、義嗣の声がすかさず、降り落ちた。 「…馬士太郎、大儀じゃ!」 それから、高らかに義嗣は笑った。 鈴貴は、ほどなく懐妊した。 知ったのは、母が伽を命じられ、馬士太郎が寝所番を務める予定の夜であった。 新しく鈴貴に付けられた侍女が寝所へやって来ると、義嗣に告げた。 「西の丸様には、ご気分が優れませず…どうやら、ご懐妊の由にございます」 馬士太郎も、背後でそれを聞いていた。 (…母上が) 妊娠した。義嗣の子を。胸が、ざわついた。しかし、思ったほど不快ではなかった。 母を楽にさせるため、義嗣に自ら頭を下げたあの時から。 すでに、西の丸様、という呼称で母は通っている。 「孕んだか」 寝所の中から、義嗣が甲高い声を上げた。 「吉兆よな」 数日後、義嗣は、母に手紙を書かせた。母の生国・寺石家にである。 何を書け、とは言わなかった。鈴貴ならば何を書くべきか知っていよう。 母は従順に、義嗣の意を汲んだ書面を、したためたようであった。 その書面の内容を見て、義嗣は 「さすがよ」 と、満足気に大笑したと言う。 故郷の、年老いた父と母へ。 連絡を絶っていた謝罪と、自分の今の生活について。 自分は、望んで義嗣の子を孕んだこと。 春には出産の予定であること。 そして、不自由なく幸せにしている、ということ。 年老いた鈴貴の父は、この手紙で義嗣に敵対する意志を、失ったのであろう。 義嗣が加納に攻め入った時、寺石家は加納家の援軍要請にも、遂に動かなかった。 鈴貴の兄・秀家は歯噛みしたが、当主である父が動かぬ限り、手立てはなかった。 鈴貴の手紙ひとつで、義嗣はまた、確かな天下への布石を打ったのだった。 春が訪れた。 戦国の動きは、ほぼ収束に向かっていた。 義嗣が、上洛する。 すでに城を出て三日。 予定通りならば、明日、都にて、帝に謁見することになっていた。 この謁見で、義嗣は帝の勅旨を賜り、遂にこの戦国の世に安定をもたらすであろう。 この頃の馬士太郎は、伊藤芳丸に次ぎ、小姓頭筆頭にまでなっていた。 芳丸も、覚悟のさだまった馬士太郎に対し、嫌がらせのしようがなくなっている。 いや、むしろ、一目置いた感がある。 めきめきと頭角を現し、小姓仲間の間でも人望を集め始めた馬士太郎に、である。 「…馬士太郎」 「はい」 「西の丸様のもとへ使いせよ。一度、母に会いたかろう」 「…良いので、ございましょうか」 「…ふん。生まれたばかりの弟の顔も見てこい。行け」 芳丸に命じられ、馬士太郎は、西の丸へ向かう。 いくつかの用事を済ませ、母の部屋の前に立つと、声を掛けた。 「…馬士太郎にござりまする。西の丸様にお目通り願いたく」 襖がやがて、すうっと開いた。昔から顔を知っている桔梗がそこにいた。 「馬士太郎様。ようこそお出でくださいました」 「…母上に、お会いしたく、参った。構わぬであろうか?」 「…どうぞ。西の丸様も、喜ばれます」 許されて、部屋の中へと歩を進める。 上座へ目を向けると、そこに、母・鈴貴がいた。 母は、馬士太郎を見て、やさしく微笑んでいる。 「…馬士太郎」 「母上」 母は、なお一層美しくなっていた。女が幸福に光り輝いている。そんな感じだ、と思った。 母の腕の中に、赤子が抱かれていた。 毛布でくるまれた赤子を、母は、大事そうにやさしく抱いていた。 時折、むずがる赤子を、よしよし…というように、腕の中であやしてみせる。 馬士太郎は、すっ、と正座すると、母に頭を下げた。 「母上…男児のご出産、誠に、おめでとうござりまする」 「馬士太郎…ありがとうございます。…お前の、弟です」 母はそう言ってから、また、にっこりと微笑んだ。 母との面会を終え、馬士太郎は小姓部屋へと戻る。 赤子を抱いて幸福そうにしていた母の表情を胸の中に思い浮かべる。 やや、胸は痛む。父親は別だ。 母は、どちらの子を、より愛しているのだろうか。 どちらも? 本当に? だが、考えてみても、詮無いことだ。 もう、十分に傷つきすぎた。そして、選んだ結論である。 母の幸福を、一番に考えよう。戦国もじき、終わるのだ。 覇者の家の一員として平和な世を迎えられる。何よりのことではないか。 春の廊下をぼお、とそんなことを考えながら歩いていて、ふと気付いた。 ざわめき。馬の嘶き。 城門の方か。 誰かが城門近くで叫んでいる。複数の叫び。やがて城中を駆ける人足の音。 何事なのか。駆け出そうとした馬士太郎の方へ、廊下の向こうから芳丸が駆けてきた。 なんと言う顔をしているのか。蒼白だ。目を剥き出しにしている。 「ろ…篭城じゃ…!篭城の準備じゃ!」 「…何事にござります?」 「き…昨日、昨日…昨夜じゃ!」 惑乱する芳丸は、がっしと、馬士太郎の肩を掴んだ。 「ぜ…善明寺にて…殿が…殿が…襲撃されたわ!」 その瞬間。ざわっ…と馬士太郎の血がざわめいた。今のは恐怖か?…快感だったのか? 「なにものの…仕業に…ございます?」 「帝よ!…後ろで糸をひいたのじゃ!この城に今、上筒、荒山の軍勢が迫っておるわ!篭城の用意じゃ…馬士太郎…!」 「…義嗣様の…殿の…生死は?」 「わからぬ!…逃げ延びられたか…それとも…討ち死になされたか…」 芳丸ががっくりと膝を付く。そして、頭を抱えると、絶叫した。 「殿…殿の死など…考えとうもないわぁぁ!」 これが、戦国か。 ついさきほどまで、動乱の世は終わりに近づいていたはずだった。 義嗣が、死んだのか。あの義嗣が。 あのような男でも、死ぬことがあるのか。にわかには、信じがたかった。 …だが、もし、もし、そうだとすれば。 (母は) 義嗣の子を産んだ母は、どうなる? 瞬時に、馬士太郎は芳丸をその場に置いて、走り出していた。 母を、守らなくてはならない。母を守れる者は自分しかいない。 幾人もの慌てふためく男や女とすれ違い、馬士太郎は、西の丸へと上っていく。 まだ定かでない運命へ向かって、馬士太郎は駆ける。 「…母上!」 息子は母を慕い、母のもとへと駆け続ける。 (未完)
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