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      七    目次





朝の陽光が射し始めている廊下。
寝所からそこへ足を踏み出し、馬士太郎はその明るさに、わずかな眩暈を感じた。
後ろから、衣擦れの音がする。
襦袢一枚の母が、自分に付き従って歩いているのだ。
母を抱き、好きなようにしている男が待つ浴場へ、母を導いていく。
数ヶ月ぶりの、夢にまで見た再会だというのに、自分の役どころは何と滑稽であることか。
母と目を合わせずに済む事が、むしろ有難かった。
もし目を合わせたところで、何を話せというのか。
だから、ただ無言で、馬士太郎は歩く。

鈴貴は、そんな息子の背を見ている。
この数ヶ月の間で、少し背丈も伸び、肩幅も大きくなった気がする。
後姿に、今は亡き夫の面影が、わずかに重なる。
(…馬士太郎)
自分が知らぬところで苦労しながらも、この子は、成長していってくれている。
母としての喜びが、わずかに胸にきざす。
だが、それもわずかのことで、すぐに現実の記憶が鈴貴に押し寄せる。
昨夜から、この子は、寝所番として詰めていた。
すべてを見られた。聞かれた。
この子の父を殺した男の前で裸に剥かれ、身体を開き、絶頂を極めさせられる姿を。絶頂の声を。
そして、仇敵に服従を誓い、その子種を求める姿のすべてを。
母の、女としての、いや、一匹の牝としての姿を、最も知られなくなかった息子に知られた。
そう思うと、このままこの世から消えてしまいたいほどの羞恥に襲われる。
そして、心から、馬士太郎にすまないと思う。
だからこそ。
馬士太郎が口を開けないならば、自分から話をしなくては…と鈴貴は決意する。


「…馬士太郎」
廊下の中ほどで、鈴貴はそう呼んだ。馬士太郎の背がぴくりと動いたが、そのまま歩を進める。
「馬士太郎…母の頼みです。少し、待ってください」
鈴貴が重ねて言うと、馬士太郎が、ゆっくりとその足を留めた。
だが、母のほうを振り向こうとはせず、木石のように、直立している。
「…こちらを、向いてください。馬士太郎」
ゆっくり一言ずつを区切るように、鈴貴は頼む。
この子が、こんな態度を取らざるを得ないのはすべて母である自分の咎だ。
鈴貴の胸にぴりり…と痛みが走る。
「…お願いです。馬士太郎」
何度目かの問いに、馬士太郎がついにゆっくりと、鈴貴のほうへ向き直った。
母と、息子。その視線が、数ヶ月ぶりに重なる。
「…元気にして、いたのですね」
鈴貴は言った。涙が流れそうになる。
蒼白で無表情でも、それは、まごうことなく、愛するひとり息子の顔であった。
「…よかった。心配していました。…息災だと、聞いてはいましたが」
鈴貴が重ねて言う。だが、息子から帰ってきたのは、冷たい返事であった。
「…誰から、聞いていたのですか」
「…」
「雑賀義嗣から、聞いていたのですか」
「馬士太郎」
廊下の中ほど、辺りに他人の気配はない。
だが、主を呼び捨てにする馬士太郎に、鈴貴の声は諌める調子を含まざるを得ない。
「なんですか。呼び捨てではいけませぬか」
馬士太郎の声が大きくなることを懸念し、鈴貴は小走りに馬士太郎に歩み寄る。
その手首を、馬士太郎がいきなり、ぐっ…握った。
「…あっ」
いつの間に、これほど力が強くなったのだろう。
「母上。…わたしは…母上に、会いとうございました」
「…馬士太郎、母もです」
「では、なぜ」
馬士太郎の目から涙が零れた。鈴貴の胸が錐に刺されたように痛んだ。
「母上。なぜ、あの男の言いなりになっているのですか」

馬士太郎の目は、十三歳の少年とは思えない痛切に満ちている。
そのまだ幼い心は悲鳴をあげ、必死になって母に、確かな答えを求めている。
(…だから、言い逃れなどしてはいけない)
鈴貴はそう思った。
自分の心を、この子にだけは、偽ってはならない。
たとえそのために、どれほど深く恨まることになろうとも。
「…馬士太郎。聞いてください」
「…」
「馬士太郎…、まず手を離してください…痛いのです」
はっとしたように、馬士太郎は、その力を緩めた。
鈴貴が自由になった手を胸の前に置く。
そして、再び、母と子は間近な距離で向き合った。

「…馬士太郎」
「…はい」
「母は、そなたを、誰よりも愛しています」
「…」
「だから、正直に、そなたに言います。残酷な母だと恨まれるかも知れません」
「…聞きとうありませぬ」
「…聞いてください」
「…」
馬士太郎が、鈴貴の目を、見つめた。
何と怯えた目の色だろう。
最愛の母を喪うことを、この子は絶望的に悟っている。
鈴貴はこの哀れな子を思い切り抱きしめたいと思う自分を、懸命に抑えた。

きっと、自分は地獄に堕ちるのだろう。
そう思いながら、鈴貴は続けた。
「馬士太郎。母は…雑賀義嗣様の、側室にしていただきました」

馬士太郎は、体の細胞の全てが死に絶えたかのように、身じろぎすらしない。
母が紡いだ言葉は馬士太郎の心を砕くに、十分だった。十ニ分に過ぎた。
「…馬士太郎」
今度は、鈴貴が馬士太郎の腕に、そっと手を掛けた。
「母を恨みなさい。そなたと…約束をしました。佐古家の再興のために、耐えようと。そなたの父上の…恨みをいつの日か、晴らすのだと」
鈴貴の頬につぅ…と涙が伝った。
「母にもうその資格がありませぬ。まだ幼いそなたに、分かってくれとは言いません」
鈴貴の言葉にも、馬士太郎の反応はない。
「ただ、これからも私のせいで、馬士太郎、そなたに辛い思いをさせるでしょう、だから、母を、以後、そなたの母とは思ってはなりませぬ。人の道を外れた畜生だと…そう思いなさい」

言葉が終わるか終わらぬうちに、馬士太郎が鈴貴の腕を激しく、振りほどいた。
そして、悲痛に叫ぶ。
「わかりませぬ!…私にはっ、わかりませぬ」
「…馬士太郎」
「母上は…父上を…」
「…」
「父上を、お忘れに、なられたのですか!」
鈴貴の表情が苦しみに歪んだ。
「馬士太郎」
「…母上は…」
「馬士太郎っ!」
鈴貴は、初めて声を鋭くした。
いま、誰かに聞かれたとしても、この子は守ってみせる。
義嗣を止めてみせる。
だが、こんなことは今日だけ、にしなくてはならない。

「馬士太郎」
母の鋭い声に言葉を呑んだ馬士太郎に向かって、鈴貴は言葉を繋ぐ。
「母は…もう、義嗣様の御子を、産むための女になったのです」


馬士太郎の顔は、能面のごとく、白い。
鈴貴は、言い放ってしまってから、やや後悔の念に襲われた。
だが、言うしかなかった。他にどう出来るというのだ。
今ここで誤魔化したところで、いずれは分かってしまう。
それは、逆に馬士太郎を長く傷つける結果を生むだけだ。

(…けれど)
鈴貴は思う。
結局、自分はいま、馬士太郎より義嗣を選んでいる、というだけのことではないのか。
それは、母親として、なんと罪深い行為であることか。
そんな想念が頭をよぎったが、それもわずかな間のことであった。
馬士太郎が、くるりと背を向けて、鈴貴は我に返った。
「…馬士太郎」
「…湯殿へ…案内いたしまする」
慕い、敬いつづけてきた母の、今の言葉や態度を理解することは不可能だった。
だから、逃げるしかない。母はきっと、どうかしてしまっているのだ。
馬士太郎の身体は、己が与えられた役目だけを果たそうとする人形と化した。
全身から生気が抜け落ちた様子のまま、鈴貴を先導していく。

もう、鈴貴も言葉を継ごうとはしなかった。
まだまだ言葉を交わしたい。だが、いまは、その時間が足らない。
ゆっくりと、息子に付き従い、母は新しい主人のもとへ歩いてゆく。


馬士太郎が、鈴貴を連れて湯殿の扉を開いた時、義嗣は脱衣所の格子窓の前にいた。
白襦袢のまま、背を向けて立ち、眼下の城下町を、腕を組んで見下ろしている。
「…義嗣様」
声を出したのは、背後の鈴貴だ。
息子は、とうてい、今、言葉を出せる状態にない。そう慮ってのことであった。
「…お待たせいたしました」
鈴貴は、すっ…と馬士太郎の前に、進み出る。
全てに踏ん切りを付けていた。息子の前でも、側室として、義嗣に仕える。
今の自分はそうするしか、ない。
馬士太郎のほうを、振り返り、鈴貴は諭すように、優しく言った。
「…馬士太郎。そちらへ」
鈴貴は、小姓が座しておくべき場所を示した。
馬士太郎は弱い目で母を見たが、やがて湯殿の入り口の端に移動し、膝を付いていく。
ゆっくりと格子窓から離れた義嗣が、脱衣所の中央へ歩いた。
その義嗣の傍へ、鈴貴はやや俯き加減に近づき、面前に正座すると、頭を下げる。
「…馬士太郎をお許し頂き、ありがとう存じます」
義嗣にとっては、終わったことだ。それに対して言葉を投げかけるつもりはない。

鈴貴は、ゆっくりと立ち上がると、義嗣の腰の帯に、手を掛けた。
「…お召し物を」
それだけ言うと、鈴貴は義嗣の帯を、解きはじめる。


ふぁさ…と義嗣の帯が緩んだ。
母の白い手が、男の襦袢から帯をほどいていく様を、馬士太郎は見ている。
優しい仕草の、美しい白い手であった。
解いた帯を、手際よくたたみ、木の蔓で編まれた籠へ仕舞い込む。
次に、母は、やや羞じらうような表情で、義嗣の襦袢に手を掛けた。
前をそっと開かせていく。たくましい胸板が現れた。
義嗣の背後に廻った母は、丁寧に、両方の腕から順番に襦袢を抜き取って脱がせていく。
義嗣は、白い褌だけを腰に巻いた姿になった。

(…母上)
馬士太郎は、喉の渇きを感じる。
ぼんやりとした思考が、また、じょじょに働き始めたかのようであった。
母は、いつもこうやって、義嗣を脱衣所で裸にしているのか。
母の手際が良いのは、それが、手馴れたいつもの作業であるからだろう。
そして、義嗣にとっても、この母の奉仕は、ありふれた日常なのだ。

母がまた義嗣の前に廻り、そしてゆっくりと膝を付いた。
白くしなやかな腕を、義嗣の褌へと伸ばし、指を掛ける。
(…母上)
馬士太郎が、母の背を、見つめるその目が、じょじょに大きく開かれていく。
母は膝をついたままで、義嗣の褌を丁寧に、解き始めた。
するする…とやはり手際よく、白い褌を取り去ろうとする。
時折、斜め後ろから、わずかに見える横顔が、薔薇色に、染まっている。
母は、羞恥している。
息子の前で、男を裸にしていくという行為に。
けれど、なぜ母の、その横顔から、屈辱や哀しみを、感じ取ることが出来ないのか。
やがて、褌が、はらり、と腰から落ちた。
母は、目を伏せた。そして、義嗣の褌を、太腿の上で、丁寧にたたんでいく。
羞ずかしそうに俯く母の背。
その前に、義嗣は、母を狂わせた浅黒く逞しい男根を、剥き出しにして立っている。


「すぐ、参ります…お先に、湯殿へ…」
鈴貴は、顔を上げようとはせずに、小さい声で、義嗣を促した。
愛するひとり息子に、何という姿を見られてしまっているのだろうか。
踏ん切りを付けたつもりでも、自分の浅ましさを感じないわけにはいかなかった。

「構わぬ」
義嗣が脱衣所ではじめて、言葉を投げた。鈴貴の肩が、ぴくんと動く。
「そちも脱げ」
「…」
鈴貴は、戸惑い、わずかに背後を伺い見る。
馬士太郎が、こちらを、凝視していた。
(馬士太郎)
見てはなりませぬ。外へ。そう言いたかった。
だが、義嗣が言わぬ限り、それは到底、叶わぬ望みである。
鈴貴は、微かな吐息を漏らすと、立ち上がった。
腰帯に、手を掛け、解いていく。

死んだ夫と馬士太郎と三人揃って、一度だけ、山中の温泉につかったことがあった。
親子三人での入浴など、滅多にないことである。
まだ六歳に満たなかった馬士太郎が、嬉しそうにはしゃぎまわっていた。
夫であった泰邦の背中を流し、鈴貴も夫に身体を流してもらった。
馬士太郎は嬉しそうにそれを見て、笑っていた。
そんな記憶が、不意によみがえり、鈴貴は狼狽する。
(…泰邦さま)
愛する夫と、息子の笑顔。何と明るい幸福だったことだろう。
だが、もう戻れない。鈴貴の身体も心も、今は義嗣のものだ。
女の幸福は、明るい日向の世界だけにあるのではない。
鈴貴はそのことを、義嗣に教わった。背徳の悦びを身体の隅々まで仕込まれて。


解いた帯を、ゆっくりと、床に落した。
それを、たたむことはしない。義嗣を待たせることになってしまうからだ。
そこで、はっと気付いた。

それはいつも、控えの小姓の者の役目であった。
自分が脱ぎ捨てた襦袢を、たたむのは、馬士太郎の役目だ。
そのことに思いつき、鈴貴は恥ずかしさに身体が震える。眩暈にすら襲われる。
情事の名残を残す襦袢を、息子に、整えられるのだ。
救いを求めるように、一度、義嗣を見る。

絶対者の目がこちらを、じっと見つめていた。
視線が絡む。強い雄の目だった。
腰に、じん…という甘い痺れを感じた。
従え、と義嗣の目は言っている。
どのような時も、どのような場所でも、儂に従え、と鈴貴の脳髄に囁き続けている。
(はい)
鈴貴は心の中で、返事をした。魅入られてしまっている。
襦袢の肩をするり、と脱ぐ。
白く透けるような肌が現れる。水をはじくような張りのある肌だ。
もう片方の肩からも、ゆっくりと着物をはだける。
すらりとした背。情事の後の床の中で、義嗣にその美しさを褒められた背筋だ。
その背筋を、今、馬士太郎は、見ているに違いない。
あとは、襦袢を離せば良かった。下には何も着けていない。
高く昇り始めた陽光が、格子窓から射し込み、脱衣所を明るく照らす。
引き締まった義嗣の裸身が目の前にある。ふと、その股間に目がいった。
陰毛の中から、逞しい男根が、生えていた。
かぁっと全身が燃えた。

(義嗣さま)
鈴貴は、ふわり…と襦袢を床に落とし、陽光の中に、真っ白な裸体を晒した。


(…母、上…)
馬士太郎は、そんな母の所作を、ただ、呆然と見ていた。
母の裸身を見た記憶は、馬士太郎にはうっすらとしか残っていない。
物心ついてからは、見たことがない。
その母が、今、父を殺した男の前で、全裸になっていた。
馬士太郎の側から見えるのは、義嗣の方を向いて立っている母の後姿だ。
うなじから背筋へずうっと伸びるくぼみが、あまりにも、艶やかだ。
母の腰は、見事にくびれている。その身体全体の線の美しさは、どうであろう。
女を知らぬ馬士太郎にも、その美しさが、本能的に分かる。
そして。
母は馬士太郎に、その豊満な尻を、無防備なまでに剥き出しにしていた。
母の、真っ白でむっちりと張り詰めた、白い尻が。
(…母上…!)
馬士太郎の、膝を握る手に、ぐっと自然に力がこもった。
自分の息が、なぜか荒くなる。下半身が、熱いように感じた。
思春期の馬士太郎を目覚めさせるのに、それは、十分すぎる刺激だった。
あの強く、凛としていた母が、いま、憎むべき男に、あられもない裸を晒している。
光の中で、息子の眼前に、その尻を晒すことも厭わずに。
尻から下へと、伸びる脚。
その脂に乗ったふとももは張り詰めて、ぴったりと閉ざされていた。
恥じらうように、閉じ合わせた肢が、時折、かすかに左右にくねっている。
(…きれいだ…)
馬士太郎は、状況を忘れて、思わず、そう心で呟いた。
そして、次の瞬間、この身体のすべてが
(義嗣のものなのだ)
そう思った。
その途端、胸の中が、熱い火ゴテを当てられたように、焼けた。
母はもう馬士太郎のものではない。
(母上は、義嗣のものなのだ)
馬士太郎は、憑かれたように、心の中で繰り返した。



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