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   四       目次





月が雲に隠れている。静かな、城の夜である。
一の丸に足を踏み入れるのは、馬士太郎にとって初めてのことだ。
この暗く長い廊下の奥、突き当たりに義嗣の寝所がある。

向かう途中、先ほどから黙ったままだった芳丸が、中ほどで足を止め、口を開いた。
「…少し待て。馬士太郎。話がある」
「…」
「分かっているであろうが、義嗣さまの寝所をお守りするのが我ら小姓の役目。いかなる粗相も許されぬ」
「…わきまえております」
「さすが、戦国の雄であった相良泰邦の嫡男。よい分別よ」
務めて無表情に答えた馬士太郎に、芳丸は、わざと大げさに頷いてみせた。
「義嗣さまは、毎夜、夜伽をなされる。…そちは、男女の睦み合い、目にしたことがあるか?」
十三歳の馬士太郎である。いささかの知識はあるとはいえ、具体的に男と女の営みがどのように行われるか、しかと知ってはいなかった。黙ったままでいると、芳丸は、薄い笑みを、頬に浮かべる。
「まあ、良いわ。ふふ。…先に教えておいてやるが、今宵の、義嗣さまの伽の相手は、前にも言ったように、そちの母よ」
途端、馬士太郎は、自分の血がすうっと全身から引いていくのを感じた。
足からぐらりと崩れ落ちるような気がして、思わず両足を踏ん張る。
「俺が言ったことが嘘でないとじきに分かる。馬士太郎、聞くがよい」
芳丸は続けた。
「敗れた国の女が、勝った国の男のものとなるのは、すなわち道理。そちの母ほどの器量があれば、 義嗣さまに見込まれるのが自然のなりゆき」
馬士太郎は芳丸を睨み据えた。夜の帳の中で、その目が、異様な光を放ちはじめている。
「義嗣さまのお手つきになるのは女の名誉じゃ。馬士太郎、よいな。今そちは、義嗣さまの小姓ぞ。今宵は自分の役目を果たすのじゃ」
「…」
「…ふふ。だが、案ずるな。そちの母は、確かに気丈だが、床の中ではすっかり義嗣さまに蕩かされておるゆえ」
芳丸は、ここではっきりと、馬士太郎に向けて笑った。
「義嗣さまに自ら進んで身体を開いておることがそちにも分かるであろうよ。母の幸福を願うのも子の務めなれば、それでそちにも踏ん切りがつくであろう」
芳丸はそう言うと、呆然とする馬士太郎を尻目に、暗い廊下を歩き始めた。


馬士太郎は、義嗣の寝所の入り口で、伊藤芳丸と二人、座していた。
まだ寝所は、ふたりのほかは、無人である。
伽の相手が先に来て、義嗣を待つ。そういうことなのか。
馬士太郎はずっと無言だ。13歳の幼い心は、どうしようもないほど乱れている。
自分が置かれている状況が、作り事のように思えて、現実感がなかった。
これから、自分は何を見、何を知ることになるのか。

廊下を、誰かが近づいてくる気配がした。
床に擦れるような足音。男のものではない。
馬士太郎の、動悸が早まった。どくん、どくんという心臓の音が夜に響く。
(…嘘だ)
目の前の障子が開いて、そこに愛する母が立っているなどということが、本当にあるのか。
その母は、ほんとうに、義嗣に抱かれるために、やってくるのか。
障子の前で、足音が止まった。
(…母上であるはずが、ない)
馬士太郎は唇を噛んだ、下を向く。喉がからからに渇く。
障子の向こうから、声がした。

「…参りました」

どくん、と心臓が跳ねた気がした。
誰より、良く知っている。その声。数ヶ月ぶりに、やっと、やっと聞けた声。
だが。その母は。
その母は、憎むべき仇に、その身体を捧げるためにやって来たというのか。
障子の向こうから、そんな馬士太郎に、容赦なく次の声が振り落ちた。

「…鈴貴でございます」

頭の奥がぐらりと揺れた気がして、馬士太郎は己の膝を強く握り締めた。


芳丸が、すすっ、と障子に歩み寄り、ゆっくりと開いていく。
馬士太郎は目を上げられない。芳丸の向こう側で、下を向いたままだ。
「…どうぞ。鈴貴どの。殿は、じきに参られましょう」
芳丸が言った。
「…はい」
母は、そう言った。頷いたようだった。
廊下から一段高くなっている部屋に、足を踏み入れてくる。
そして、いつもとは違う小姓が、芳丸の傍に座しているのに気付いたらしかった。
だが、すっ、とそのまま、通り過ぎた。

今から男に抱かれる自分を小姓に見られるのが恥ずかしく、いつも鈴貴はことさら寝所に入ると歩を早めて、義嗣を待つための閨へ向かう。今夜もそうしたに過ぎない。
暗がりの中で、顔を下に向けている小姓が誰なのかをわざわざ確認しようとは、しなかった。


母の足音が部屋の奥へと向かっていく。馬士太郎は、わずかに顔を横に向けた。
そして、見た。愛する母の後姿を。
後姿であっても、馬士太郎が見まがうはずもない。

母は、白の襦袢ひとつを身にまとっていた。
闇の中に、襦袢から覗く白い足首が、生々しく浮かび上がっていた。

「…母…上…」
うめくように小さく漏れた声は、鈴貴に届かない。
鈴貴は、女らしい仕草で簾をあげてゆく。
そして、わずかに動きを止めたあと、そのまま、男を待つための閨房へするり、と身を入れた。


(…ちぃ。息子に気付かなかったか)
母子の残酷な再会を期待して見ていた伊藤芳丸は、やや肩透かしを食らったような面持ちである。だが、
(…それはそれで、この後に楽しみが残るというものじゃ)
と、内心で卑しい笑みを漏らしたのだが、次の瞬間、ぎょっとして身を固くした。
それは、廊下の向こうから、義嗣の足音が迫ってきたから、ではない。
芳丸には、主の足の運び方でその日の気分や機嫌がおおよそ伺える。
その経験からして、今の義嗣が、理由こそ分からぬが、不機嫌さを募らせている状態だと知り、緊張したのである。

「…馬士太郎、殿じゃ。姿勢を正さぬか!」
小声で、しかし鋭く注意され、簾の奥を呆然と見詰めていた馬士太郎は、やや自分を取り戻したようだった。
青ざめた顔のままながら、義嗣を待つ姿勢を整えていく。
ずか、ずか、と大股に足音が近づいてくる。
そして、障子が勢い良く開けられると同時に芳丸が大袈裟に、頭を畳にこすり付けて平伏した。
馬士太郎も、反射的にそれに倣う。
憎むべき敵の顔をしっかりと目に刻んでやる…といった先ほどまでの気概は、いま、母の身を案ずるあまり、どこかに消し飛んでしまっていた。

「今宵の寝所番、相務めまする!」
芳丸が緊張した声音で言った。
ぎらり、とした目で義嗣は、芳丸を見下ろす。
鈴貴と同じように、白の寝間着のみを身にまとっている。
芳丸を見下ろした鋭い目が、やがて、その背後で平伏する馬士太郎に移った。
一目で馬士太郎だと見抜いたようであった。
「…芳丸」
それから、低く言った。
「はっ」
「…小ざかしき真似をしておるな」


義嗣の、叱責とも取れる言葉に、芳丸の血は凍り付いた。
下等の小姓の教育は、ある程度、芳丸の裁量に任されている。
その権限を利用して、馬士太郎を寝所番として連れて来たのだ。
だが、義嗣の機嫌がここまで悪いとは予想していなかった。
義嗣の不興をかえば、その場で首を刎ねられても、不思議はないのだ。
母が犯される姿を馬士太郎に見せ付けようという芳丸の卑劣な思惑を、義嗣は当然見抜いている。
そのことを、いま、どう判断するのか。
(…しくじった)
芳丸はもはや身体を動かすことすら出来ず、脂汗が身体中を伝うのを感じている。

しばらくの沈黙があった。
「…ふふ」
微かに、笑った。義嗣がである。
「馬士太郎。面をあげよ」
馬士太郎の名を呼んだ。
だが、寝所の奥、簾の中までは到底聞こえない声である。
馬士太郎は、まだ青ざめた顔を上げた。そして、まっすぐに義嗣の顔を見据えた。
その目に、義嗣に対する怒りと不信、そしてたった今母の姿を見た動揺が渦を巻いていた。

義嗣はしばし、その目を見据える。
「…辛きこと、多いのう」
そう、言った。
玩弄とも、慰めとも取れる響きがあった。
「…儂も幼少のみぎり、そうであった」
馬士太郎には返すべき言葉がない。
何を言って良いかが、わからない。
義嗣が自分に何を伝えようとしているのかも、分からなかった。
「寝所番、しかと務めよ」
それだけ言うと、義嗣は歩き出した。
向かう先に母がいる。母が待つ閨が、ある。


義嗣が近づいてくる気配を感じ、夜具の脇で正座していた鈴貴の身体が強張った。
七日ぶりに会う義嗣である。簾の入り口が開き、今では見慣れた顔をした男が、閨の中へすうと入ってきた。
とくん…、と豊かな乳房の奥で鈴貴の心臓が鳴った。

鈴貴は務めて冷静な風で、畳に手を付くと、今は自分を支配している男に向かって、静かに頭を下げてみせる。
その横に、義嗣が、言葉もなく、あぐらを掻いて座った。

鈴貴の横には、義嗣をもてなすべき酒や杯が台に乗せて用意してある。
「…お酒を」
そう言った声が、また昼間のように掠れていて、鈴貴は、やや焦って言い直す。
「…お召し上がりに、なられますか?」
義嗣は黙っている。それは肯定なのだと、もう、今の鈴貴は知っている。
台から盃を取り、義嗣へ両手で押し包むように渡す。
それを鷹揚に受け取りながら、ようやく義嗣は鈴貴を見た。
「…退屈しておったか?」
夜伽に呼ばれなかった間のことを聞かれている。
だから、鈴貴は答えない。
黙って酒器を手にすると、義嗣が差し出している盃に注ぎ口を当て、ゆっくりと注いでいく。
 
亡き夫にも、何度もこうやって酒を注いだ。
ふと、そんな思いがよぎり、慌てて胸のうちで亡き夫の面影を覆い隠す。
今の自分を、やはり、亡夫に見せたくはない。
「…ふふ。拗ねておるか」
義嗣が盃をグイと飲み干して言った。
「さようなことは」
思わず、鈴貴はむきになって言い返し、そして、はっと気付いた。
自分は、今、義嗣をなじりたいのだ。
なぜ、七日も自分を放っておいたのだ、と責めたいのだ。
鈴貴の中で何かが、かあっと灼けた。
クックク…と義嗣が笑い、空になった盃を鈴貴に向かって突き出す。
鈴貴は、喉が渇くのを感じる。
軽い眩暈がやってくる。
到底、自分などが敵わない男の前に、座らされている。
そして鈴貴は酒器を手にし、従順に、義嗣の容器を新たな酒で満たしていく。


「…じき、米の収穫が終われば」
義嗣が酒を舐めつつ、言った。
「加納を攻める。ここ数年、包囲し続け疲弊させておったが、そろそろ、攻める頃合いじゃ」
「…加納家を」
鈴貴は思わす顔を上げ、義嗣を見て、そう口に出した。義嗣が薄く笑った。
「そちの生国…寺石家と加納家は同盟を結んでおったな。ことによっては…そちの父や兄と、儂は戦うことになろうな」
「…」
鈴貴は黙り込む。もう十数年会ってはいないが、父や母、そして鈴貴には常に優しかった兄・秀家の姿を思い出した。

そう言えば兄は、死んだ夫と、歳が近かったこともあって仲が良かった。
鈴貴の婚礼の日に初めて会い、言葉を交わすうちに、すっかり意気投合したのだった。
その後も、鈴貴が馬士太郎を身篭り、出産した折には、祝いの使者として佐古家を訪れ、数日を過ごして帰っていった。
生まれたばかりの馬士太郎と鈴貴を交互に見て、夫以上に嬉しそうな笑顔を見せていたものだった。
「昨夜は、そちの兄と、明け方まで飲みながら語り明かしたぞ。よき男じゃ」
夫からは嬉しそうに、そう言われたことを思い出す。
(…あなた…兄上様)
兄は、そして父母は、今の鈴貴の境遇を知っているだろう。
妹の、娘の無事を祈り、義嗣に対しては憎悪の念を抱いているに違いない。

ただし、彼らが知っているのは義嗣に投降し、囚われの身となった時点までの鈴貴だ。
まさか、鈴貴が、今では義嗣の閨で義嗣が飲むための酒を注ぎ、義嗣が他の女を抱けば嫉妬に身を灼き、全裸に剥かれて蹂躙されれば、腰を振りながら義嗣の愛撫に応えて咽び泣き、快楽を訴える女にされている、などと…想像できるだろうか。
出来ないだろう。
鈴貴の潔癖で男勝りの気性を知っている人間であればあるほど。
なのに、これほどに、自分は恥知らずな、浅ましい女に変えられてしまった。
酒を注ぐ鈴貴の手が微かに震える。
義嗣はそんな鈴貴を見ている。
すべてを見透かすような目で。


思いに耽っていると、ぐい、と手を引かれた。
「…あっ」
鈴貴は軽い悲鳴をあげるが、やすやすと、義嗣の腕の中へ抱かれてしまう。
「…故郷を思い出しておったか? それとも夫のことか?」
夫のことを持ち出され、鈴貴の顔がさあっと羞恥に染まる。
義嗣は、そんな反応を楽しむように、やはり薄く笑いながら、鈴貴の顎へ手をやると、くい、と上を向かせた。
「口開けい」
「…っ」
間近で、目を覗き込まれる。
魔性の目だ。
逆らうことが許されない、服従だけを強いる目。
術に掛けられるような、そんな気分になり、鈴貴の眩暈が、強くなる。
「口を開けい…と言うておる」
鈴貴の息が荒くなり、胸が大きく上下しはじめる。
そして、言われるまま、口をゆっくりと開けてゆく。
じゅるっ…と義嗣が、己の唾を、その口の中へと落した。
「…飲め」
分かっている。命令されなくとも。
鈴貴はこくん…と喉を鳴らした。
すると、すぐにまた次の唾液を口の中に垂らされる。
命じられる前に、今度は自分から、飲み下す。
自分が潔癖だと信じてきたもの、尊いと信じてきたもの、それらひとつひとつが、義嗣の唾液を流し込まれるたびに、汚され、作り変えられ、置き換えられていく。
これまで鈴貴が信じてきたものは意味を喪い、義嗣に新しい種を植え付けられていく。そんな気がする。
そして、今ではそこに、被虐の深い悦びが生まれはじめていることに、鈴貴は、まだ気付いていない。
「…まだ、飲み足らぬであろう?」
からかうように義嗣が言う。
ぼお…と桃源郷にいるような靄の掛かり始めた思考の中で、鈴貴は、操られるように、従順に頷いた。
「ねだってみせい」
鈴貴の吐息がさらに荒くなる。
襦袢の下の乳房が、はあはぁと大きく上下する。
「唾を…」
掠れる声で、求めていく。夫を殺めた男に。
「飲ませて…くださりませ」
義嗣が、満足そうに笑った。
鈴貴が大きく開いた口の中へ、また、どろり…とした唾液を垂らし込んでいく。
受け止めた鈴貴の白い喉が、こく、こく…と動いた。
じじじ…と燭台の炎が、闇に揺れる。



馬士太郎は、いま、簾の奥を凝視して動かない。
芳丸にとっては、簾の中を覗くのも愉快だが、馬士太郎の表情を盗み見るのも、これまた愉しくてならない。
(…哀れなものよな…。信じていた母が、あのような有様では。)
たった今、義嗣の勘気を蒙りそうになったことも忘れ、にい、と唇の端を歪めて笑う。
馬士太郎に芳丸のことを気にかける余裕はない。
その耳目は簾の奥の光景にのみ集中していた。
燭台の薄明かりが、閨の奥で男女がもつれあう様を映し出している。
簾に邪魔されてはっきりとは見えない。
しかしそのことが、逆にふたりの関係の深さを思わせる。
あの簾の奥は、義嗣と母にのみ、許された空間なのだ。
義嗣と母は身を寄せあっている。
背中から抱き寄せる義嗣に、母は一切抵抗をせず、むしろ甘えるように身を寄せ、しなだれかかっている。
母の不貞を否定できる余地が、確実に馬士太郎から、奪われていく。
そして、ふたりの顔が、ゆっくりと重なり合っていった。
母は白い喉を見せながら男の指で上を向かされ、男は覆い被さるように顔を重ねている。
母の身体が男の腕の中で艶かしく息づき、悩ましげな動きを見せている。

「…あれはな、唾を、たっぷりと飲ませておるのよ」
芳丸が言った。
それでようやく、馬士太郎は芳丸がここにいたことを思い出す。
緩慢な動きで、芳丸を見る。
だが、その目の焦点は、定まっていない。
「無理強いではないぞ。のう、馬士太郎。そちの母は、抗っておるか?」
芳丸は、すでに毒牙にかけた獲物が死に至るのをゆっくりと待つ蛇のような目で、馬士太郎を見る。
「…そちの母は、もう、そちのものではないのだ、馬士太郎」
芳丸の言葉は、馬士太郎の頭蓋に反響した。そして次の刹那、

「…あ…ひっ!」
鋭い声。母の声だ。暗い寝所の闇を裂くように響いた。
馬士太郎がかつて聞いたことのない声色。
馬士太郎の蒼白な顔は、無意識に、簾の奥へと向いた。
母を背中から抱いていた義嗣の手が、いま、後ろから母の白い襦袢の胸元に、分け入っていた。
そしてそのまま、乳房のあたりでねっとりと蠢いている。
母の乳房を、義嗣が揉みしだいている。……母の、乳房を。
「…、く、ふぅっ!」
して母が、鋭く、哭いた。



耳元で、義嗣がふふっ、と笑ったのが分かる。
(悔しい…)と一瞬、鈴貴はそう思う。
この男が自分の前で狼狽する姿を、見てやりたい。
寺石鈴貴、いや、佐古鈴貴は、これまでの人生で男から愛されたことはあっても、支配されたことはなかったはずだ。
乳首を、こりり、と摘まれた。
先ほどから、傍若無人に襦袢に分け入って大きい手で、たっぷりと乳房を揉みほぐされていた。
官能を蕩かされ、やがて鈴貴が、鼻から、どうしようもない甘え泣きを漏らし始めるのを待って、頃はよし、とでも言うように、義嗣はその指でこりっ、こりっと音を立てるように、乳首を挟み、揉みほぐした。
どれほど自分が乳首を尖らせてしまっていたかを、鈴貴は知る。
だが、羞恥にまみれる暇はない。乳首から迸る電流のような快感に、鈴貴はのけぞり、牝の声を上げる。
「…あ…ひ、ぃ…ッ!」
びくびくっ、と鈴貴は震え、義嗣の厚い胸板に、助けを求めるように自分の背を押し付ける。
「もう、こんなにも尖らせておったか…儂に会う前から、抱かれとうて、どうしようもなかったのであろう?…」
義嗣の意地悪い囁き。
だが、それはまるで恋仲の男の囁きのように、鈴貴に甘い屈服を、促す。
鈴貴はいやいやをする。
処女のように恥じらい、息を弾ませる。
これが私なのだろうか。頭の片隅でそう思う。
薙刀を取れば男とすら互角に渡り合える。
荒地で馬を駆けさせるのも、容易い。
この人こそ、と信じた愛する男の子供を授かり、産み、そして立派に育て上げてきた。それなのに。
義嗣の舌が、うなじを這った。
尖った舌先が、唾液の線を引いて、鈴貴の白い、透き通るようなうなじを滑る。
「…っ…い…いっ…」
鈴貴の右手は、必死で夜具を掴み、握り締めている。
襲ってくる快楽に懸命に耐えている。
うなじにびりびりと走る快感から逃げようと首をねじれば、義嗣にその顔をぐいと引き戻される。
執拗なまでに舌で責められる。
はあはあ…という荒い息は、自分の吐息だ。鈴貴は目をきつく瞑る。だが。
次の瞬間、きつく、首筋を吸われた。同時に、乳首を強くぎゅッと潰された。
「ひぃッ!…やあぁッ!」
寝所の隅々まで届く声を、鈴貴は上げた。自制できぬ涙が頬を零れ落ちた。
鈴貴は、赤黒い被虐の悦びの中で、義嗣の牝と化していく。


「…いつになったら、儂の名を呼ぶ?…うん?」
義嗣はなおも鈴貴の耳に囁く。
もう何度も義嗣に与えられる快楽に屈服してきた鈴貴だが、しかし、まだ自分から男の名を呼んだことはない。側室となることも、頑として拒んできた。
それだけが、鈴貴に残る最後の矜持であった。
義嗣が、鈴貴の襦袢を肩口からがばあ…と、引き剥がすように、脱がせた。
「はう…っ」
白い上半身が、あらわにされる。豊かな乳房が零れ落ちた。
義嗣は鈴貴を背後から抱き寄せ、両腋の下から手を通すと、量感たっぷりの鈴貴のふたつの乳房を、荒々しく、むんず、と掴み取った。
その頂点には、義嗣の愛撫に負けた桃色のふたつの突起が、固くしこっている。
義嗣は、手に包んだ鈴貴の乳房を、しごくように揉み潰し始める。
鈴貴の真っ白な形の良い乳房が、ひしゃげ、押し潰される。
最初は痛みしか感じなかった乱暴な愛撫。
だが、この数週間で、鈴貴の身体は応えるようにされてしまっている。
「どうじゃ…こういう扱いにも、感じるようになってきたか」
鈴貴は答えない。いや、答えられない。
ただ、ふたつの乳房を揉みしだかれ、はあ、はあと荒い息をついて首を振るばかりだ。
押し寄せる快感はわずかな恐怖を伴い、鈴貴は必死で、義嗣の手首を掴む。
だが、そうすれば、痕が残るほど強く、乳房を潰されるのだ。
「…ひいいッ!」
義嗣の"お仕置き"を受け、抵抗が無駄だと知る。掴んだ義嗣の手を離す。
涙がまた、零れ落ちる。


義嗣の右手が乳房から離れ、右足のひざの裏にかかった。
すでに襦袢の裾は浅ましく乱れ、肉付きの良い太腿が、夜具の上に白い。
義嗣はそのまま、ひざの裏に手を入れ、ぐい、と大きく開かせていく。
鈴貴に、義嗣の命を伝えに来る小姓も、桔梗も、このことは知らない。
義嗣に呼ばれた夜は、襦袢の下に、何ひとつ付けることを許されていないことを。
「…やあッ…」
鈴貴の黒い陰毛が、乱れた襦袢の奥から覗く。
「ふふん」
楽しくてならぬ様子の義嗣は、必死で抗う鈴貴の左足に、自らの左足を絡めて、動けぬようにすると、右足だけを、大きく開かせていった。
「…ああっ、…こ、このようななさり方、いやでございますっ…」
とうとう、鈴貴は哀願してしまう。
鈴貴を追い詰める作業に入ったときの義嗣は、口数が少なくなる。
鈴貴が 敗北を認め、性の快楽を自ら訴えて鳴き悶え、義嗣の男根をねだるまで、義嗣は鈴貴を追い詰める作業に夢中になるのだった。
哀願する鈴貴に構わず、ぐい、と手を股間の奥に差し入れた。
「ああ…ッ!」
鈴貴の口から、絶望を諦めの入り混じった悲鳴が漏れる。
「…」
義嗣は、無言で、鈴貴の女の部分を指でまさぐった。
豊かに溢れた愛汁が、義嗣の指に音を立てて、跳ね返った。
「いやぁ…」
鈴貴は全身を羞恥に染めた。
義嗣は、にやりと、満足の笑みを漏らし、鈴貴の秘所をたっぷりと指で弄り始める。


ひっ…ひっ…という、嗚咽のような声が、暗い寝所に、絶えず流れている。
その声はいくぶん、甘えたような響きを含み、湿り気を、帯びている。
簾の奥で義嗣と母の影は先ほどから重なり合ったままだ。
だが、義嗣に後ろから羽交い絞めされるように抱かれた母の身体は、時折不意に、びく、びくっ…、と激しく痙攣した。
そしてそのたびに「ひ、いッ…」という小さいが鋭い声が漏れる。
必死に堪えた末に零れてしまう…そういった感じの声が、馬士太郎の耳には届くのだった。
それは誰かに救いを求める声にも聞こえたし、支配者に対する屈服の証しのようにも感じられた。
いずれにせよ、馬士太郎がかつて聞いたことのない母の声。
それは、動物の本能…そういうものを感じさせた。

男と女の営みについて、まだ詳しくは知らぬ馬士太郎だ。
だが、簾越しにも、母が義嗣に、己の身体を預け切ってしまっていることは、分かる。
母は、自ら義嗣の胸に自分の背中を強く押し付けている。
白い裸身をはあはあと上下に喘がせている。
両の脚は、これでもかというほど、左右に浅ましく開かされていた。
母の内腿など、物心ついてから、馬士太郎は見たことがない。
遠目にも、白く透けるようで、しかもたっぷりと肉の付いた母の太腿であった。
帯ひとつでかろうじで母の腰にまとわりつく白い襦袢。
だが、その襦袢を裂いて、股の奥に義嗣の右手は忍び込み、何かを弄るように蠢いている。
そこまでは見えない。
しかし、間違いなく、義嗣は、母の恥ずかしい部分を蹂躙している。
だが、どうやって?
馬士太郎にはまだそれが分からない。

それでも、母がその淫らな行為を受け容れていることは、分かった。
母の腰は前後にうねったり、円を描くように揺れながら、義嗣の指の動きに合わせるように動いていた。


「…ん?もう、達しおるか?」
不意に義嗣の声がここまで届き、馬士太郎はびくりと震えた。
母の、見てはいけない行為を盗み見ている自分を、義嗣に嘲笑われたような気がした。
「どうした、気をやりたいか?…むん?」
それまで母の耳元で囁いていた声を、もはや遠慮なく大きくした、そういう感じだ。
母の股間にもぐった義嗣の右手に、先ほどまでよりも、執拗な動きが加わっていた。
激しく動いている。
その指先は今、どういう動きをしているのか。馬士太郎には分からない。
「やッ…あっ…ああっ…いやぁッ!」
母の悲鳴が大きくなった。
「そらッ、鈴貴、気をやってみせぃ」
義嗣が、母の名を、読んだ。「鈴貴」と。
そう、まさしく、父だけがそう呼んでいたように。
「やッ…お、おゆるしっ…あ、あ、あ!」
母がいやいや、と弱々しく首を振っている。あの母が。
強く、可憐で、凛としていた、母が。
義嗣に、父を殺した男に翻弄され、少女のように。
こんな母を、かつて見たことはない。
「今宵はしばらく呼ばなかった分、朝まで濃く可愛がってやろうぞ、のう?」
義嗣の声が、残忍な笑いを含んでいた。
母は、堕ちるのだ。義嗣の手に。
それがどういうことなのかは分からない。
だが、母はもう馬士太郎の側にはいない。
そのことだけは呪いたくなるほど明確に分かった。
「あッ、あっ!あーーッ!」
「いつものように、申せッ、鈴貴ッ」
「ひぃー…ッ、ひッ!す、鈴貴に…気を、やらせて…くださいませ…ッ!」
義嗣の鋭い命令に弾かれたように、馬士太郎の母は寝所中に響く声を、迸らせた。
「儂の名を呼べッ! 鈴貴、気をやってみせいッ!」
ぐちゅり。
そんな水音が聞こえた気がした。
「あ…あおうッ…!よ、…義嗣さ、ま…っ!」
母が、呼んだ。義嗣の名を。確かにそう呼ぶのを、馬士太郎は聞いた。
獣のように咆哮し、母は海老のように背を反り返らせた。
馬士太郎は、自分の見知らぬ母を、ただ、見つめた。





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